百十四 こめられた想い
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内に酸素を取り込んで、心臓が脈打ち出す。張り詰めていた緊張も抑え込んでいた感情も耐え切れなくなっている紫苑へ、ナルトが更に追い打ちをかける。
「紫苑、お前の…」
巫女だからとか、世界が滅亡するだとか、そんな言葉を聞きたいわけじゃない。
運命だと諦めて、本心を言えないまま消えてなくなろうとする彼女を、ナルトは見たくなかった。昔の自分を見ているようで、嫌だった。
「お前の言葉で、お前の本心を言え」
その一言で、ずっと堪えてきたモノが堰を切って溢れ出す。
思考するよりもまず口から飛び出したのは、確かに彼女の本心だった。
「…や…いやじゃ…」
同時に我慢していた涙が一気に瞳から流れ出る。子どものように泣きじゃくりながら、紫苑は叫んだ。
自分の本心を。
「いやじゃ―――っ!!」
死にたくない。消えたくない。なくなりたくない。
生きていたい。
生きたい。
紫苑の心からの叫びを耳にして、ナルトがようやく口許を緩ませる。ふっ、と唇に浮かべた微笑は、本心を露わにした紫苑に対し、ほんの少しの憧憬があった。
紫苑を抱きかかえて、ナルトは宙を舞う。【魍魎】によって洞窟内は破壊し尽くされ、溶岩が溢れている。灼熱地獄という名に相応しいその場には、もはや何処にも足の踏み場が無かった。
ここで【魍魎】を完全に仕留める為に、無駄なチャクラは使いたくない。
だからと言って、空中に浮かんだままだと龍にとって攻撃の的でしかない。【魍魎】を完全消滅させるには、やはり先ほど紫苑を引っ張り上げた龍の根元を狙うのが一番だろう。
不意にナルトは【魍魎】の邪気にあてられた存在が大人しい事に気づいた。
【零尾】、否、黎明。
封印の祠、いや鬼の国に赴く以前からずっと体内で抑え込んでいた黎明が、今は静かだ。その理由が、紫苑の鈴の効果によるものだとナルトはようやく勘付く。
鈴の封印の力が黎明の暴走までも抑え込んでいるのだろう。今の黎明なら、ナルトの声が届くはずだ。
重力により自然と落下してゆくナルトと紫苑。
グツグツと沸き上がる溶岩が迫り来るのを目の当たりにして、紫苑がナルトに縋りつく。真っ赤に燃え盛るマグマの爆ぜる音と龍の雄叫びに、ナルトの微かな囁きが溶けて消える。
それは彼に抱きかかえられている紫苑でさえも聞き取れない、小さな声だった。
「力を貸してくれ…―――黎明」
刹那、真下で噴き上がっていた溶岩が陥没する。
マグマの海がナルトを中心に裂け、飛び散った飛沫が洞窟の壁を焼いた。
落下の恐怖でナルトに顔を埋めていた紫苑がおそるおそる眼を開ける。その瞳に、漆黒の羽根が、ふうわり、映り込んだ。
驚愕で紫苑は何度も眼を瞬かせる。彼女の視線を一身
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