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渦巻く滄海 紅き空 【上】
百十四 こめられた想い
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湧き出ていた光を失い、またもや暗黒に満ちた闇。その闇を一気に突き抜け、紫苑は【魍魎】の体内から外へ放り出される。



「眼を開けろ」
声に導かれ、紫苑は眼を開けた。

自分が放っていた光とは違う、外の明るい光が飛び込んでくる。
数多の龍が生えている根元。その龍の発生源のドロドロとした紫紺の闇が寸前まで自分がいた空間だと解って、彼女はゾッとした。


「息をしろ」
声に促され、紫苑は詰めていた息を吐き出した。

思えば随分長い間、呼吸をしていなかったようだった。【魍魎】に呑み込まれ、本来の自分の力に目覚めても、彼女は満足に息すら出来ていなかった。


「見えるか。聞こえるか」
声に問われ、紫苑はそこでようやく、自分がまだ生きている事実を知った。

【魍魎】の体内に呑み込まれた紫苑は、もはや生きるのを諦めていた。己の中で眠っていた力を解放しても、悟りの境地に陥っていた。
紫苑の力は死ぬ間際に発動する。故に彼女は【魍魎】を圧倒する力を持っていながらも、死の瀬戸際を彷徨っていた。あれだけの尋常ではない光はまさしく、紫苑の命最期の輝きであった。

その光が消えた今、紫苑が【魍魎】を道連れにして世界から消え去る事は出来なくなった。その代わりに、彼女は再び世界へと戻ってきた。
即ち、【魍魎】の中の闇から、生きる希望の光に満ちた現世へと、ナルトによって強引に連れ戻されたのだ。



呆ける紫苑の見上げた先に、懐かしい金がある。間近にあるナルトの顔に驚くよりも先に、彼の問い掛けに紫苑は固まった。

「お前の心は何と言っている?」


その質問は紫苑にとって、思いがけないものだった。考えた事も無かった。
だって巫女とは妖魔を封印する存在で、それは絶対で、だから先ほど自分は己の命を懸けて【魍魎】をこの世から消そうとしたのだ。だから自分の意志や個人の思いなど関係ない。それが運命なのだから、仕方が無い。
どうしようもないのに、解り切った答えを何故聞いてくるのか。紫苑は混乱し、動揺し、そして一抹の期待を抱いた。



「このまま、死にたいのか?」

ナルトの声音は変わらない。淡々とした問いかけは冷たく、紫苑を【魍魎】の中から引っ張り上げた時とは一変して、感情の一切が窺えなかった。


「消えてなくなりたいんだな?」

瞳を大きく開けた紫苑の唇がわななく。「でも、だって」と言い訳染みた言葉ばかりが、か細く唇から零れたが、ナルトはそれを無視した。


聞きたい事は一つだけだ。
生きたいのか、死にたいのか。


「言え」

瞳の青に射竦められ、紫苑の肩がびくりと跳ねる。ナルトの強く真剣な眼差しで心臓を貫かれたような衝撃を彼女は覚えた。
「…やっ…」

深く息を吸い込み、体
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