第十六話 そして疾風怒濤の日々
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「それまで!勝者、アレクサンデル・バルトハウザー生徒」
審判がアレクの勝利を宣言し、わきかえる会場の真ん中で、公子はただ呆然と立っていた。
俺はブルーノとルーカスに目配せすると、公子を迎えに試合場に降りた。
迎える、そう、迎えるのだ。幼年学校の学び屋へ。
うなだれる公子の肩に上着をかけると、俺は才気と演技力を慎重に制御して顔面の皮膚だけでない真摯な表情を作り、言葉を選んで公子を説得にかかった。もう何回目だろうか忘れてしまった一世一代の大芝居だが、命がけの大仕事、慣れや手癖でやるわけにはいかない。最後の詰めをルーカスに譲る、前座に徹することも忘れてはいけない。
最大最後の難関を俺は慎重に攻略していった。
「体をお鍛えください、公子」
「……」
「片腕とも頼むあなたが叛徒の兵士ごときに討ち取られては、皇帝陛下がお嘆きになられます」
「片腕……」
「公子は力がおありにあります。あの重い一撃、鍛えに鍛えれば叛徒の精鋭『薔薇の騎士』とてひとたまりもありますまい」
「重い一撃」
「はい。傍で見ていても重さが伝わってまいりました。私などでは、とても受けきれないでしょう」
おだてて乗せはするが、嘘は言わない。自分のことでは少しだけ言うとしても、公子の実力や可能性に関しては一言の嘘も言わない。『薔薇の騎士』の兵や下士官程度なら倒せるようになるかもしれない、というのも資料映像で見た奴らの戦いぶりから判断したことだ。ひたすら真摯に、俺は言葉を重ねた。
「本当に、『薔薇の騎士』に勝てるようになるか」
やがて、真摯さが伝わったのか、呆けていた公子の目に光が戻った。過信ではない自分の力と欠点をどちらも正確に理解し、受け入れた光だ。
しっかりとこちらを見返してきた公子に頷いて、俺は横に退きルーカスを前に出した。あとは、最後の決めはルーカスの仕事だ。
「やろう、オイゲン。君なら僕を追い越すのはすぐだよ!」
ルーカスは公子の手を取ると、俺の演技とは全く違う本物の友情の輝きを全身から溢れさせ、目をきらめかせてたたみかけた。
もしかすると、俺の芝居は必要なかったかもしれない。原作で士官学校を首席で卒業しても変わらなかった純粋さは公子の心に残った最後の躊躇いを突き崩し、六十秒数えないうちに公子に承諾の笑みを浮かべさせていた。
『発電効率が悪いばう』
『頭も剃るがう』
『だーーーーっ、やめんかこの大飯食らいどもーーーーーーーっ!!』
広い額をゆかいなしもべたちに太陽光発電のミラー代わりにされている悪魔の手練手管をもってしてもこうはいかないだろう。
「鍛えていなくてあれだけ戦えるのなら、鍛えれば三日間不眠不休で戦っても平気になる。俺が保証してやる。槌鉾を扱ったら俺より上達するかもしれんな」
ぎこち
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