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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十四話 信頼
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来た」
本当でしょうか、私には自信がありません。でも少佐の表情には冷やかしや軽侮はありませんでした。
「……でも私はフェザーンの件を報告しませんでした。監視者としては失格では有りませんか」
「少佐は貴官になら話しても良いと考えた。貴官は少佐のために他者には話すべきではないと考えた……。そうだな」
「はい」
私の返事に少佐は柔らかい笑みを見せました。
「貴官達には信頼関係が有ったのだと思う、人としてのね。それはどんなものよりも大切なものだ。貴官はそれを守った、間違った事はしていない」
間違った事はしていない? なら何故盗聴器を?
「貴官は間違った事はしていない。だから我々が汚れ仕事を引き受ける。監視者も監視対象者も人なのだ、その事を忘れては生きた情報など得る事は出来ない」
「……生きた情報」
よく分かりません。私は生きた情報を送ったのでしょうか? 私はいつも失敗ばかりしてヴァレンシュタイン少佐に圧倒されていました。それが生きた情報?
「貴官には酷い事をしたと思う。許してくれと言うつもりは無い、理解してくれと言うつもりも無い。ただ……」
「ただ?」
「ヴァレンシュタイン少佐との関係を維持して欲しいと思う。ヴィオラ大佐が言っていたよ、二人は本当に楽しそうだったと、とても監視者と監視対象者には見えなかったとね」
「……」
楽しかったです。フェザーンだけじゃ有りません、アルレスハイムも楽しかった。その前からずっと楽しかったんです、少佐と一緒にいる事が……。今とは雲泥の差です、思わず鼻の奥に痛みが走りました。
「彼は今一人だ。全てのものから背を向けようとしている。だが、それでは何時か壊れてしまうだろう。だから貴官が手を差し伸べて欲しい。いつか彼は必ず助けを必要とするはずだ」
「……私に出来るでしょうか」
私の問いかけにバグダッシュ少佐は軽く笑みを浮かべて首を横に振りました。
「私には分からない、貴官にも分からないだろう。だから信じるんだ、いつか彼が必ず助けを必要とすると、自分が彼を助けるんだと」
今のような怖い少佐ではなく、昔の少佐に戻ってくれるのならと思います。たとえ意地悪でサディストで、どうしようもない根性悪でも、優しい笑顔を浮かべてくれる少佐のほうが私は好きです。少佐、戻ってきてください、お願いですから、戻ってきて……。
眼から涙がポロポロと落ちます。私は自分が何を失ったのかようやく分かりました。私が失ったのは信頼だったのです。帝国と戦うと決めたときから少佐は人の心を捨てました。そして信頼も捨てたのです。それを取り戻さない限り、私の知っている少佐は戻ってきません……。
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