第七章
[8]前話
「応対するんや」
「そうすればええか」
「ああ、それもまた商売や」
「寿司屋のか」
「そういうことや」
これが父の言葉だった、その話は健一も聞いた。
それでゆめにその蛸握りを出してからだ、こう妹に言った。
「そんなもんか」
「そうみたいやな」
ゆめはその蛸を手に取りつつ応えた。
「河童でも鬼でもな」
「お稲荷さんでもな」
「ええんやな」
「そうみたいやな」
「お客さんやったら」
ゆめはあらためて言った。
「河童でも鬼でもええ」
「暴れんかったら」
「そういうもんか」
「不思議な話やな」
「ああ、けどな」
ゆめは健一に父の言葉を頭の中で反芻させつつこうも言ったのだった。
「その通りかもな」
「お客さんはお客さんか」
「うちのお寿司楽しんでくれるんならな」
そしてお金を払ってくれるならというのだ。
「ええか」
「そうなるか」
「そうちゃう?あのお客さんも」
河童であろう彼もというのだ。
「毎日来て食べてくれてるし」
「それならやな」
「ええか、河童巻売れてるし」
「そやな、御前も河童巻食べんでええようになってるし」
「それでええな」
「そういうことやな」
二人で話してだ、そしてだった。
ゆめは兄にだ、笑ってこう問うた。
「次のネタ何なん?」
「納豆巻や」
「ああ、納豆かいな」
「御前納豆も食うしな」
「嫌いやないで」
胡瓜は苦手だがこちらはというのだ。
「好きやで」
「ほな次それいくで」
「頼むわ」
ゆめは兄に笑顔で返した、そしてだった。
その納豆巻も楽しんだ、その次の日に店にその客が自分と同じ様な口が尖って頭の天辺に髪の毛がない者達を大勢連れて来たのを見てだ、ゆめは思わず吹き出しそうになって兄に言われた。
「気付かんふりしとけ」
「そやな」
ゆめは笑いを堪えて頷いた、そして彼等の河童巻の注文を受けるのだった。
河童 完
2017・3・25
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