第三章
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「河童巻き」
「河童巻きですか」
「はい」
店の親父、ゆめの父である健太郎に言った。健一がそのまま大人になった様な外見だ。
「それを十人前」
「十人前ですか」
「そうです」
その尖った口で言うのだった。
「お願いします」
「それでは」
注文なので健太郎も断らなかった、そしてだ。
この客は次の日もその次の日もだ、店に来て河童巻きばかりを頼んで食べた。その客についてだ。
健一は閉店後カウンターに座るゆめに鉄火巻を出してからそのうえで言った、店の隅では健太郎と母の正美が売り上げの勘定をしている。
「もう胡瓜はないで」
「全部売れてやな」
「最近ずっとそやろ」
「ああ、そやな」
それこそとだ、ゆめも言う。
「あのお客さんがとにかく河童巻き食べるから」
「それも毎日来てな」
「それでやな」
「今日もないわ」
「それは何よりや」
ゆめは鉄火巻を食べつつ兄に笑顔で応えた。
「うちにしてもな」
「元々好きやないのに飽きてて」
「それでや」
まさにというのだ。
「嬉しいわ」
「うちの売り上げも上がったしな」
「他のお客さんも河童巻食べてくれてな」
「というかな」
「というか?」
「ネットはほんま有り難いな」
こう妹に言うのだった。
「いや、実際に」
「一気に世界中に宣伝出来るからな」
「こんなええものはないわ」
「うちもそう思うわ」
「お陰でこうして河童巻も売れてる」
「うちも河童巻食べんで済む」
「ほんまにええな、ただな」
ここでだ、健一はふとだ。カウンターの中で首を傾げさせてからゆめにこんなことを言った。
「毎日来てるあのお客さんやけどな」
「河童巻ばかり食べてる」
「あのお客さん毎日決まった時間にうちの店に来てるやろ」
「七時にな」
ゆめも店の手伝いをしている時間だ、バイト料も僅かだが出ている。
「来てはるしな」
「毎日寿司屋に来てるってな」
「お金持ちやな」
「しかもな」
さらにと言う健一だった。
「毎日河童巻ばかり食べる」
「十人前とか」
「けったいなお客さんやな」
「うちのサイトの宣伝見てか?」
「それで来たにしてもな」
それでもというのだ。
「何かけったいなお客さんや」
「毎日来て河童巻ばかり食べる」
「しかもあの外見な」
「?そういえば」
ゆめは鉄火巻を食べる手を止めて兄に言った。
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