第一章
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河童
椎名ゆめは大阪市福島区の寿司屋の娘だ、だから通っている中学のクラスでクラスメイト達によくこう言われる。
「ええなあ、お寿司屋さんって」
「何時でもお寿司食べられるやん」
「こんなええ暮らしないで」
「ほんまやな」
「それがや」
ゆめはここでいつもクラスメイト達に言うのだった、髪の毛は黒いショートだが左右で結んでいて大きなおっとりした感じの黒目がちの目が印象的だ。あどけない顔立ちで小柄で幼い身体つきだ。
「残りもんを食べられるって思うやろ」
「ちゃうん?」
「そうならへんの?」
「世の中甘くはないで」
ここからいつもこう言うのだった。
「見事全ネタ完売の時も多い」
「お店的にはラッキーやな」
「それに越したことないな」
「その時は食べられん」
寿司自体をというのだ。
「しかもネタなんて何が残るかわからんしな」
「そういえばそやな」
「お客さんが何食べるかわからんし」
「何が残るかなんてな」
「全然わからへんな」
「好きなネタ食べられへんで」
家が寿司屋でもというのだ。
「しかもお父ちゃんも修行中のお兄ちゃんも新しいネタ考えるの好きでや」
「それで変なネタも作る」
「それを食べなあかんか」
「変なネタの時はほんま悲惨や」
家族としてそれを食べる時はというのだ。
「まずいなんてもんちゃうで」
「ゆめちゃんのお店美味しいって評判やめどな」
「寿司飯はええしネタは絶品で握り具合もええ」
「福島でも有名なお店やん」
「けどおかしなネタやとか」
「まずいんやな」
「そや、しかも嫌いなネタを食わされたりもするし」
父や兄達が握ったそれをだ。
「変なお客さんも来たりするしな」
「お寿司屋さんも大変か」
「そやねんな」
「好きなネタ食べられるとか限らんねん」
寿司屋の娘でもというのだ。
「そやからええもんかっちゅうとな」
「決してそうやない」
「そやねんな」
「現実は厳しいで」
そうしたものだというのだ、ゆめは寿司屋の娘だけあってそうしたことがよくわかっていた。そして家でも実際にだ。
残ったネタを使った寿司をよく食べていた、それでゆめはこの時兄の健一が握った河童巻きを食べつつ閉店後のカウンターで言った。
「もう河童巻き飽きたわ」
「売れ残ること多いからな」
「というかうち元々胡瓜好きやないし」
「納豆もやな」
「どっちかっちゅうと胡瓜の方があかん」
好きではないというのだ。
「どうもな」
「そやからか」
「たまにはトロとか平目とか残ったらええのに」
「そういうのから売れるんや」
寿司屋では、というのだ。
「あとイクラに海胆な」
「そういうのが好きやのに」
「売れ残りを食べて始末せなあかん」
健
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