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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十三話 兵は詭道なり
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ます、死んだら何も聞こえなくなる……」

「……」
周りが俺の話を聞いているのが分かった。だが止まらなかった。止める気も無かった。あの地獄を俺以外の誰かに教えてやりたかった。

「私は何も出来ませんでした。血の臭いに嘔吐し、負傷者の声に怯えていました。何故自分は無傷なのか、どうして自分も負傷しなかったのか、そうすれば彼らと一緒に誰かを恨み、呪う事が出来たのにと、それだけを考えていました。あのままだったら私は狂っていたかもしれない……」

そう、狂っていたかもしれない。そして自分で自分を傷付けていたかもしれない。それをナイトハルト・ミュラーが助けてくれた。
「あの時、私が狂わずに済んだのはナイトハルトが居たからです。彼は怯え、泣きながら嘔吐していた私を助けてくれた。背中をさすり励ましてくれた。彼自身が負傷していたにもかかわらず、役立たずな私を守ってくれた。だから今の私が居る……。あれに比べればこんなのは地獄じゃない、ただの戦闘です」

サアヤとバグダッシュが顔を強張らせて聞いている。そうか、そういうことか……。
「バグダッシュ少佐、少佐はナイトハルト・ミュラーをご存知のようですね。少しも訝しげな表情をしていない。ミハマ中尉から聞きましたか?」

俺の問いかけに二人はハッとしたような表情を見せた。
「違います、私、話していません」
「別に構いませんよ、私は口止めをしていない。ただ貴女が話さないだろうと勝手に思っただけです」

つまり俺が馬鹿だったというわけか……。彼女が情報部の人間だと分かっていて信用した。何となくスパイらしくないと思った。彼女はそんな俺を利用した、つまり正しい事をしたわけだ。

サアヤが泣きそうな表情をしている。
「違います、私、本当に話していません、信じてください、少佐」
何を信じるんだ? 俺には信じるべき何物も無い。有るのは現実だけだ、そして現実は彼女が情報をバグダッシュに知らせたと言っている。

俺が此処に来たのはそれが理由か。俺が帝国に帰ろうとしている事を望まない人間が居るわけだ。そして帰さないために最前線に出した。死んでも構わない、生き残ればさらに出世させて最前線に出す。そういうことだろう……。ローゼンリッターと同じだ、危険なところに出して遣い潰す、これこそまさに地獄だな……。

「待ってくれ少佐、ミハマ中尉は我々に報告していない」
顔を青褪めさせてバグダッシュがサアヤを庇った。
「では、何故知っているんです?」
沈黙か、上手い手じゃないな、バグダッシュ。

「……フェザーンのヴィオラ大佐に頼んで盗聴器を彼女に仕掛けた。それで分かったんだ」
「……盗聴器! 酷い! 酷いです、バグダッシュ少佐!」
「それが私の仕事だ。たとえ味方でも疑ってかかる。それが情報部だ!」
「!」
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