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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十話 思惑
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、その“例の件”が抱える秘密が原因なのではないか、情報部ではそう考えています……」
「馬鹿な、ブラウンシュバイク公も手出しできないだと? 亡命した時、彼は兵站統括部の一中尉だった。その“例の件”にどんな秘密が有るというのだ」
俺の言葉にバグダッシュ少佐は落ち着けと言う様に手を前に出した。
「キャゼルヌ大佐、ヴァレンシュタイン少佐は僅か一週間で同盟の極秘事項であるヴァンフリート4=2に気付いているんです。帝国でも何かに気付いた、そしてそれを快く思わない人物が居た……。有り得ない話ではありません」
「……」
重苦しい沈黙が部屋に落ちた。確かに有り得ない話ではない。兵站統括部で何かに気付いた、汚職か、あるいは横領か……。エーリッヒ・ヴァレンシュタイン、お前は一体何に気付いた? どんな秘密を抱えている?
「……まあそのくらいにしておけ」
シトレ本部長の低い声が沈黙を破った。ヤンは何処かでほっとしたような表情をしている。おそらくは俺も同様だろう。バグダッシュ少佐が首を一つ振って話し始めた。
「問題は彼が五年後、十年後に帝国に戻った時です、何が起きるか……」
「……同盟の事情に詳しい人間が帝国に戻るか」
「それだけではありません、彼は自分の帰還に尽力したブラウンシュバイク公の傍に戻る事になる。公の娘、エリザベートが女帝になれば彼は帝国の軍事活動に大きな影響力を持つ事になるでしょう。恐ろしくはありませんか? 大佐」
「……」
「彼は帝国には戻せない。彼が戻ろうとするなら殺さざるをえん……」
シトレ本部長が重い口調で呟いた。バグダッシュ少佐も無表情に頷く。
「だが殺すには惜しい人物だ。味方にしてこそ意味があるだろう。彼には帝国と戦ってもらう、補給担当将校ではなく用兵家としてだ。本当の意味で同盟人になってもらわなければならん……」
なるほど、そういうわけか……。シトレ本部長、そしてバグダッシュ少佐が何を考えているのかが分かった。彼を帝国と戦わせる、大きな功績を挙げれば帝国も彼を敵だと認識するだろう。彼は帝国に帰り辛くなる、そして帝国は彼を戻し辛くなる……。
そしてヴァレンシュタインはそれを理解している。だからあんなにも変わってしまった。彼の心を占めているのは絶望だろう……。
「ヴァレンシュタインが変わったのは、それが原因ですか……。帝国と戦う、帝国に帰れなくなる、だから……」
「……」
皆沈黙している。シトレ本部長、バグダッシュ少佐、そしてヤン……。皆無表情に沈黙している。
「哀れな……」
ヤンが首を振って呟いた。
「惨い事をしているとは理解している。しかし、彼がこの国で生きていくにはその道しかないのだ。彼はそれを理解しなければならん……。彼は我々を憎むだろう、嫌悪するかもしれん。だが、この先
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