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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十話 思惑
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バグダッシュ少佐」
訝しげに問いかけたのはヤンだ。スパイではないと思っていたのだろう。俺も同感だ、奴は本当はスパイなのか?

「いえ、接触したのはミハマ中尉です。彼女にナイトハルト・ミュラー中尉という帝国軍人が接触してきました。彼はヴァレンシュタイン少佐とは士官学校の同期生で親友だと説明し、ミハマ中尉にこう言ったそうです」
「……」

「“私は彼を守れなかった。だからあいつは亡命した、私に迷惑はかけられないといって”……そしてこうも言ったそうです。“アントンとギュンターが例の件を調べている。必ずお前を帝国に戻してやる”」

ヴァレンシュタインは亡命者だった。だが帝国に戻るという希望を持った亡命者だったということだろうか。ヤンが深刻な表情をしている。ヤンはヴァレンシュタインを危ぶんでいた。

亡命者らしくない、用兵家としての能力があるにもかかわらず、それを隠そうとする。そのくせ全てを見通しているかのような動きをする……。余りにもちぐはぐで何を考えているのかが分からない……。もしそれが帝国に戻るという希望を持った所為だとしたら……。

「我々はミュラー中尉を調べ、彼の言葉に有ったアントンとギュンターという人物に注目しました」
「分かったのか、彼らが何者か」
俺の問いかけにバグダッシュ少佐が頷いた。

「ミュラー中尉はヴァレンシュタイン少佐と士官学校で同期生です。となるとアントンとギュンターの二人も同期生の可能性が強い。浮かび上がったのは、アントン・フェルナー、ギュンター・キスリングの二人です」

「ギュンター・キスリングは憲兵隊に居ます。問題はアントン・フェルナーです。彼はブラウンシュバイク公に仕え、その側近として周囲から認められつつある」
「ブラウンシュバイク公……」
俺とヤンが同時に呟き、バグダッシュ少佐が“そう、ブラウンシュバイク公です”と言って頷いた。

ブラウンシュバイク公、オットー・フォン・ブラウンシュバイク、現皇帝フリードリヒ四世の娘と結婚し女婿として大きな影響力を持っている。フリードリヒ四世は後継者を決めていない、ブラウンシュバイク公の娘、エリザベートは皇帝の孫、次期皇帝の有力候補だ。

「ブラウンシュバイク公の影響力を持ってすれば、ヴァレンシュタイン少佐を呼び戻す事など簡単な筈です。ところが未だ少佐は同盟に居る……」
「おかしな話だな、他の誰かと間違っているんじゃないか?」

俺の言葉にバグダッシュ少佐は頷かなかった。首を横に振って話を続けた。
「此処で気になるのはミュラー中尉が言った“例の件を調べている”です」
「例の件……」

「調べがつかないのか、或いはブラウンシュバイク公も手出しできない程の大きな問題なのか……。少佐が戻れない事、そして亡命した真の原因は遺産相続などではない
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