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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八話 ポイント・オブ・ノーリターン
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ないな、連中を喜ばせるような事など絶対に出来ない。俺は勝つ、絶対に勝つ。ラインハルトは戦争の天才かもしれないが今は未だ准将だ。二百隻ほどの小艦隊を率いる指揮官に過ぎない。それに必ずしも上から信頼されているわけでもない。やり方次第では勝てるはずだ。

もしかすると歴史を変える事になるかもしれない。だがそれがどうしたというのだ? 皇帝は宇宙に一人しか居ない、楽に皇帝になれるはずがないのだ。ラインハルトも分かっているだろう。俺に踏み潰されるならラインハルトもそれまでの男という事だ。皇帝になるなど痴人の戯言だ……。

戻れなくなるな、多分俺は帝国に戻れなくなる。ミュラー、フェルナー、キスリング、済まない。どうやらお前達の努力は無駄になりそうだ。だが、それでも俺は死ねないんだ、生きなければならないんだ。だから、戦場で出会ったら俺を殺すことを躊躇うんじゃない、俺も躊躇わない、これからは本当に敵になるんだ……。



宇宙暦 794年 1月30日 ハイネセン 後方勤務本部 ミハマ・サアヤ



キャゼルヌ大佐の私室から自分のデスクに戻るとヴァレンシュタイン少佐は両手を組み、額を押し付け目を閉じました。まるで祈りを捧げるかの様な姿です。もしかすると本当に祈っているのかもしれません。帝国と戦わざるを得なくなった自分の運命を呪っているのかもしれない。

まさかこんなところであのシミュレーションの結果が利用されるとは思いませんでした。多分少佐は私のことを怒っているに違いありません。祈り続ける少佐を私は見ていられません、自然と項垂れていました。

どのくらい経ったでしょう、少佐の声が聞こえました。
「ミハマ中尉、これから言うものをリストアップしてください。そしてキャゼルヌ大佐に届けるんです。ヴァレンシュタインが要求しているといって……」

顔を上げると少佐が私を見ています。顔面は蒼白、でもその顔には笑顔が有りました。いつもの穏やかな笑顔じゃありません、痛々しい泣き出しそうな笑顔です。見ていられない、顔を伏せ、小声で答えるのが精一杯です。
「はい……」

少佐が必要なものを言い始めました。無機的な口調で膨大な量の兵器、物資、人間の名前を言い始めます。少佐は本気で戦おうとしています。戦争が始まるのだと改めて実感しました……。



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