第六十一話 重圧
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彼の表情は下を向いているし、髪に埋もれて見えないけど、でもどんな表情であるかは私にはわかった。
「段々魔法が下手になってくるのが嫌で、勇者な事が嫌で、そんな僕が嫌で」
レックスが自分の心中を吐露していく間、私はその言葉にかつての自分を重ねていた。
魔法の再習得をしていた頃の私。
早くアベル達を助けたい一身で魔法の習得に無心して、自分の願望に追いつかない現実に焦燥感を抱いて、怯えを感じつつも、それでも歯を食いしばって進む事を強く決めた過去の私を。
「でも、先生がこうして言ってくれたお陰で僕は僕の為に頑張れそうです」
再び向き合った彼の笑みは、さっきよりも明るい無邪気で安らかなものだった。
「出来るわね」
「はい、先生。僕はお父さんやお母さん、世界を助ける為に戦って、戦う為に魔法を頑張ります。でもそれは僕が勇者だからじゃない」
「じゃあ何?」
「僕の大切なものを守りたいと思うから僕は頑張って戦うんです。ですから、これからもよろしくお願いします」
そう言ってレックスは深々とお辞儀をした。
「こちらこそよろしくね。レックス」
ーー心配しないで、レックス。あなたの先生は私なんだから。
*
戻るとタバサが少し拗ねていた。
「ごめんね、一人にして。少しレックスと話したい事があったから」
「……いいですよ。でも次からは一人にしないでくださいね」
そしてタバサは私に近づいて、
「大丈夫です、怒ってませんよ。本当はこのお休みはお兄ちゃんのためだったんですよね?」
小声でそう言ったのだった。
「結構勘が鋭いのね」
きっと成長したら色んな意味で油断できない人になりそうだなとそんな事を私は考えていた。
*
それからレックスはどんどん実力を伸ばしていき魔法だけでなく剣術の腕前も大きく成長していった。タバサの方も魔法の習得を進め、実戦レベルになる程にまで魔法の力を高めていった。
そしてついに出発の日が訪れたのだった。
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