第六十一話 重圧
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が産まれてきたのは世界が勇者を求めているから、彼が幼いにも関わらず戦いに向かわなければいけないのはそういう定めだから……。
だけど彼は勇者である以前にただの子供だ。
年相応の小さな子供。
それなのに両親と生き別れになり、その肩にはあまりにもの大きすぎる荷物を背負って戦わなければいけない。
「……ごめんね」
言葉が思わず零れた。
レックスは少し驚いた顔をしていた。
「貴方達が特別だからといって色々と無理をさせてしまっているんじゃないかって……。そう考えると貴方達に申し訳無くなってくるの。まだ小さいのに戦うように育てていることが」
「大丈夫です!」
レックスは大声を出したことに自分でも驚いたようだけど、すぐに無邪気な子供の笑みを浮かべた。
「大丈夫です。僕は世界を救う為に生まれてきたんですから」
無邪気さ故に放たれたその言葉は私の胸を強く抉って、気が付いたら私は強く彼を抱きしめていた。
「せ、先生……!」
「そんな事言わないで」
「えっ……」
一層強く彼を抱きしめて私は言った。
「貴方の人生は貴方の為にあるんだから、世界を救う為に生まれてきたなんて言わないで」
私は元の世界に帰れるという条件と引き換えに『影響』を消す為にこの世界に転生した。たとえ笑えていても、喜べても、心のどこかでは自分にあるものを思い出さなければいけない。自分が今こうしているのは使命によるものだと、自分の存在理由がそれしかないと思わずにはいられない。
自分の教え子にそういう思いを抱かせて、彼を『勇者』というだけの存在にしたくない。
「お願い。2度とそんな事言わないで」
「……わかりました」
レックスの返事を聞いて、私は体を離した。
「先生」
「何?」
「僕が魔法をできないのは、先生のせいじゃないです。勇者だから上手くならなきゃいけないってずっと思い込んでいて……」
レックスはグランバニアの王子である上に勇者だから、産まれた時から不特定多数の人間の期待や尊敬を浴び続けていた。
そんな想いを一身に身に受けるうちに、『自分は世界を救う為に産まれてきた』と考えるようになって、それが枷になってレックスを縛り付けていたからであるし、逆にタバサの魔法が上手くいったのは天賦の才によるのもあるが、彼女が勇者ではなかった事で周囲からの期待が兄と比べて少なかったから彼女は抱え込みすぎる事なく魔法の腕を上達させる事が出来たのだろう。
「お父さんとお母さんや世界を救えるような人だって、たくさんの人から言われ続けてて、その通りにしなきゃって思ってて、魔法に失敗するたびにもっとしっかりやらなきゃって頑張って、でも本当は授業が嫌で」
根底にあるものをレックスは吐き出し始る。
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