MR編
百四十六話 恐れど
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
出したその出会いは、サチに更なる偶然という記席へと導くことになる。
────
「ありがとう……ホントに、ありがとう……凄い、怖かったから……助けに来てくれたとき、ホントにうれしかった……ほんとにありがとう……」
或いは、涙すら浮かべていたかもしれない、自分のそんな言葉に対して彼の浮かべた表情をなんと言い表したものか……ただ後になって思うと、あの時の自分は少々恥ずかしかったかもしれない。そう思うと、帰り道でキリトと名乗ったその少年の顔がまともに見られなかったのは、仕方のない事だと思う。
街を歩きながらそんなことを考えて少し顔を紅くしていたいた時、ふいに、前を行くケイタたちが立ち止まった。
「あれ?兄貴?」
「おあ?」
危うく前を歩いていたササマルにぶつかりそうになって慌てて顔を上げる。
「あぁ?キリト?お前なんで此処に?」
「いや、俺が聞きたいんだけど……」
「キリト、知り合い?」
どうやらキリトの知り合いに会ったらしいその会話の声を聞いたその瞬間、意識が真っ白になった。その最も新しい、知らない筈の声が、よく知るある人の声に、よく似ていたからだ。そんな、まさか、そんなはずは……そんな言葉が、次々に頭に浮かんでは消える。
顔を上げ、その話かけてきた男の顔を見た瞬間……彼女の思考の全てが、一瞬だけ停止した。
間違いなく、その顔を知っていた。
本当に会えた。そんな想いと、どうしてこんな所で、そんな悲哀が同時に胸に去来する。たっぷり10秒近く停止した思考から、彼女は無意識に、その名を読んでいた。
「……りょう?」
「……ふぬ?」
少し間の抜けた、泣きたくなるほど懐かしい声が、サチの、美幸の耳朶を打つ。桐ケ谷涼人、彼女が心の奥底でずっと想い続けていた人が、そこにいた。
────
「んじゃまぁ、帰るわ」
「うん……またね」
その日、キリトの歓迎会と称した宴会がどんちゃん騒ぎへと変わる中、遅くなる前にと外へ出たリョウコウ/涼人の事を見送る為に、二人で外へ出て話す時、美幸はずっと、自分の右手を抑えていた。
「まぁ、ちょくちょく様子見に来るからよ。一応俺のかわいい義弟なもんで、よろしく頼むわ」
「わかってる。私にとっても新しい仲間だもの、皆ともきっとすぐ仲良くなるよ」
「はは、もう既にって感じだけどな」
「ふふ……そうだね」
抑えていなければ、きっとこの手は彼の服をつかんでしまう。行かないで欲しいと言ってしまう。傍に居て、守ってほしいと言ってしまう。そんな確信があった、だからそれを抑えるために、必死に左手で右手を強く握る。絶対に、その手を前に出してはいけないと、そう自分に言い聞かせながら。
「そう言えば……よぉ」
「え?」
だというのに……そうだというのに……
「……大丈夫か?」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ