MR編
百四十六話 恐れど
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サチは、賛同など全くしていなかった。サチは、死ぬことが恐ろしかった。その意味を知っていたからだ。もう永久に、言葉を交わすことも笑い合うことも共に泣くことも出来なくなる、その意味を、彼女ははっきりと理解していたからだ。だが……
「私は、無理だよ」
喉まで出かかったその言葉は、自分を信頼しきっているPC同好会のメンバーの瞳を見た瞬間、言葉に出来なくなった。どうしようもなく弱弱しい彼女の意志は、その信頼を裏切らなければならない、彼らと対立しなければならないと思った瞬間に、その主張をやめた。あまりにも、サチの意志は弱すぎたのだ。
「わかっ、た」
気が付くと、彼女はそう言っていた。それが、彼女をフィールドへと導くと分かっていながら、自らを殺すかもしれないと分かっていながら、彼女はそう、うなづいたのだ。
────
次の歳の1月、サチたちPC同好会は、ギルドへとその様相を変えていた。
名は、「月夜の黒猫団」。
実を言うとこの名前を考えたのはサチだ。名前を決める時、じゃんけんで決めることにして、サチが一回で独り勝ちしたのが端的な理由で、自分としては可愛いと思って付けた名前だったのだが、どうにもメンバー(というか雄介/ダッカ―)には不評だった。
ただそれは最初の内だけで、少しすると、皆その名前に慣れて行った。
ギルドのリーダーは、現実でも部長を務めていたケイタが昆を使いながら、副リーダー兼戦闘隊長には、こちらも副部長だった哲/テツオが付いた。サチと勝/ササマルは、主に槍を使用し、彼の後ろから援護を、カッコいいという理由で短剣使いのシーフ役になったダッカ―は、遊撃手に付いた。
モンスターと戦うことで間近に感じる死の恐怖は、柄の長い武器を使い、少しでもモンスターと離れて戦うことで、何とか軽減することが出来た。
しかし攻略開始から3カ月が過ぎた、3月の序盤……
「サチ、ちょっと話があるんだ」
「え?う、うん……」
「実は折り入って頼みがあってさ……」
「何……?」
「うん、サチ……前衛に転向する気は無いか?」
「ッ……」
その申し出は、ある意味サチにとっては予想通りであり、同時に一番恐れていた提案でもあった。
「今のままじゃテツオの負担が大きすぎるんだ……それに、サチはササマルに比べると槍のスキルの熟練度もまだそんなに上がってないだろ?だから、少しずつでもいいから、練習しないか?」
そう、前線に近づくにつれ、モンスターが強くなるにつれ、当初サチたちが予想していたよりも、前衛として敵の攻撃を受け止めるタンク役の重要性は大きくなっていた。少なくともスイッチして回復のローテーションを組むために、テツオと合わせて二人以上の前衛が必要なことも、そしてその為に転向する役として自分が最も効率がいい事も、サチには分かっていたのだ
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