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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六話 フェザーンにて
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「分かりづらい店だ、随分と探した」
俺の言葉に目の前の男、アントン・フェルナーは苦笑を漏らした。
「憲兵隊、ギュンター・キスリング中尉でも迷うか? まあその分安全だと思ってくれ。此処は俺の知り合いがやってる店なんだ。多少の我儘は聞いてもらえる」
分かっている。今俺達に必要なのは安全だ。敵は強大で危険だ、臆病なほどに慎重で良い。
「ギュンター、例のサイオキシン麻薬の件、本当なのか?」
俺は黙って頷いた。アントンが呆れたように溜息を漏らす。“信じられんな”そう呟く声が聞こえた。同感だ、全く信じられない、呆れた話だ。
アルレスハイム星域で帝国と自由惑星同盟を名乗る反乱軍との間で戦闘が起きた。そして、その戦いで帝国軍は一方的に敗れた。残念な事ではある、しかしこれまで敗北が一度もなかったわけではない。数ある敗北の一つで終わるはずだった。
だが、今回の敗北は数ある敗北の一つでは終わらなかった。反乱軍は帝国軍がサイオキシン麻薬を所持していた事、そのサイオキシン麻薬を同盟領にばら撒こうとしていたと非難した。
“サイオキシン麻薬は人類の敵であり、それを兵器として利用した帝国軍の非道は到底許されるものではない……”。帝国にとっては寝耳に水だった。否定は容易い、だが否定して良いのか? 此処近年、帝国の辺境ではサイオキシン麻薬の汚染が確実に広まっている。今回の一件が何処かでそれに絡んでいないか……。イゼルローン要塞に帰還した艦隊の残存部隊に対して調査が行なわれた。
「辺境星域にボルソルン補給基地が有る。此処にサイオキシン麻薬の製造工場があった。無人惑星の上、辺境に有るため人もあまり来ない。犯罪を行なうには理想的な場所だな」
「酷い話だ、軍人が私腹を肥やすために麻薬ビジネスに手を染めるとは……」
アントンが顔を歪めた。
「憲兵隊は今回の件を徹底的に調べるように命じられた。帝国軍上層部はこれを機に辺境にはびこるサイオキシン麻薬を一掃するつもりだ」
サイオキシン麻薬の撲滅は軍の上層部が強く願ったらしい。放置すればまた同じ事件が起きかねない。軍上層部にとっては悪夢だろう。日頃仲の悪い帝国軍三長官―軍務尚書、統帥本部総長、宇宙艦隊司令長官―が一致して行動を起した。徹底的に捜査する事になるだろう。
「ギュンター、エーリッヒは元気そうだな」
「ああ、元気そうだ。安心したよ」
少しの間無言になった。俺はエーリッヒのことを考えた。こいつは……、こいつもそうなのかもしれない。
エーリッヒ・ヴァレンシュタイン、士官学校の同期生にして親友。誰よりも信頼できる男だったが、約五ヶ月前反乱軍に亡命した。それ以後、あいつの消息は分からなかった。だが今回の会戦で帝国軍がサイオキシン麻薬を扱っている事を暴いたのはエーリッヒだった。
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