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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六話 フェザーンにて
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ッシュビー元帥の事って何だろう? 何か調べ物? 訊いてみようと思ったときでした。ヴァレンシュタイン大尉が口を開きました。
「フェザーンには何の用でしょう」

静かな声です。だけど声には何処か苛立たしげな響きがありました。大尉にとってはアッシュビー元帥の事などどうでも良い事なのでしょう。それともヤン中佐の沈黙が気になるのかもしれません。

「物資の調達だ。それほど難しい仕事ではない、あくまでほとぼりを冷ますための仕事だ。往復で約二ヶ月、十分だろう」
「了解しました。では小官はこれで失礼します」

大尉が椅子から立ち上がり敬礼しました、私も慌ててそれに倣います。その時です、それまで沈黙していたヤン中佐が話しかけてきました。
「ヴァレンシュタイン大尉、貴官はアッシュビー元帥をどう思う?」

問いかけられた事が意外だったのかもしれません、大尉は困惑したように少しの間ヤン中佐を見詰めました。
「どう思うですか、御質問の意味が良く分かりませんが?」
「いや、用兵家としてのアッシュビー元帥を貴官はどう思うかと思ってね」
「……亡命者の大尉に国民的な英雄であるアッシュビー元帥を評価しろと?」

部屋の空気がまた重くなりました。ヤン中佐もヴァレンシュタイン大尉も静かな、穏やかな声で話しているのに空気が重くなっていきます。キャゼルヌ大佐が厳しい表情をしているのが見えました。

「難しく考えないでくれ、ただ貴官の意見が聞きたいだけだ」
「……優れた戦術家だと思います、情報の重要性を理解していた人でもある……。宜しいですか?」
「ああ、有難う」

答え終わってもヴァレンシュタイン大尉はヤン中佐から視線を外しません。今度はヤン中佐が困惑を表情に浮かべました。
「ヤン中佐、私はスパイでは有りませんよ。中佐の敵でもない。もう少し信じて欲しいですね」
「そうであって欲しいと私も思うよ。貴官は敵に回すには危険な人物だからね」

ヴァレンシュタイン大尉は椅子を片付けると“失礼します”と言って部屋を出て行きました。私もその後を追います。
「どうも誤解されてる、困りました」
呟くような声でした。本当に困っているのかもしれません。

大尉、残念ですが誤解されるのは日頃の行いが悪い所為です。誰のせいでも有りません、大尉御自身の悪行が誤解を招いているんです。それにあながちヤン中佐が誤っているとも思えません。大尉が危険人物なのは間違いないのですから……。



帝国暦 483年10月 6日 オーディン  ギュンター・キスリング


店のドアを開けると部屋の奥のテーブルから手を挙げる男が見えた。そちらに向かって歩く。小さな店だ、直ぐに彼の前に着いた。彼の正面に座ると冷やかすような声がした。

「随分遅かったじゃないか、ギュンター」
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