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Sword Art Rider-Awakening Clock Up
ユイの謎
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トコトコ、と小さな足音が耳元で聞こえた。ハッと視線を向けると、先に待ち受ける危険を知らずに進む子猫のようなあどけない歩みが眼に飛び込んだ。

細い手足。長い黒髪。背後の安全地帯にいたはずのユイだった。恐れなど微塵(みじん)もない視線で、まっすぐ巨大な死神を見据えている。

「バカッ!!速く逃げろ!!」

ユイを眼に捉えた俺が、必死に上体を起こそうとしながら叫んだ。死神は再び重々しいモーションで鎌を振り被りつつある。あれほどの範囲攻撃に巻き込まれたら、ユイのHPは確実に消し飛んでしまう。キリトとアスナもどうにか口を動かそうとしたが、唇が強張って言葉が出ない。

しかし、次の瞬間、信じられないことが起こった。

「大丈夫だよ、パパ、ママ」

言葉と同時に、死神の大鎌が赤黒い光の帯を引いて容赦なく振り下ろされた。

「ユイちゃん!!」

アスナの絶叫をかき消すかのように、凶悪なまでに鋭い鎌の先が、ユイの体に当たる。

その寸前、鮮やかな紫色の障壁に阻まれ、大音響と共に弾き返された。ユイの頭上に浮かんだシステムタグを、俺は愕然と凝視した。

「あ……あれは……」

【Immortal Object】、そこには確かにそう記されていた。不死存在__プレイヤーが持つはずのない属性。

黒い死神が、まるで戸惑うように眼球をグリグリと動かした。直後、3人を更に驚愕させる現象が発生した。

ユイの体がフワリと宙に浮き始めた。ジャンプしたのではない。見えない羽根を羽ばたかせたように移動し、2メートルほどの高さでピタリと静止した。あまりにも小さな右手を、そっと宙に掲げる。

更に。

ごうっ!!という響きと共に、ユイの右手を中心に紅蓮(ぐれん)の炎が巻き起こったのだ。炎は一瞬広く拡散した後すぐに凝縮(ぎょうしゅく)し、細長い形に(まと)まり始めた。みるみるうちにそれは巨大な剣へと姿を変えていく。炎色(えんしょく)に輝く刀身が炎の中から現れ、どこまでも伸び続ける。

ユイの右手に出現した巨剣は、優に彼女の身長を上回る長さを備えていた。溶融(ようゆう)する寸前の金属のような輝きが通路を照らし出す。剣の炎に(あお)られるように、ユイの身に着けていた分厚い冬服が一瞬にして燃え落ちた。その下からは彼女が最初に着ていた白いワンピースが現れる。不思議なことに、ワンピースも、長い黒髪も炎に巻かれながらも影響を受ける様子は一切ない。

自分の身の(たけ)を越える剣を、ブン、と一回転させ、わずかな躊躇いも見せずに炎の軌道を描きながらユイは黒い死神へと撃ちかかった。

あくまでシステムが単純なアルゴリズムに基づいて動かしているに過ぎないボスモンスター、その血走った眼球に、アスナは明らかな恐怖の色を見たような気がした。

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