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Sword Art Rider-Awakening Clock Up
朝露の少女
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、キリト君はパンを切ってね」

手早くフィッシュ・バーガーの弁当をランチボックスに詰め、2人が家を出た時は午前9時となっていた。

庭の芝生に降りたところで、アスナはキリトを振り返ると言った。

「ね、肩車して」

「か、かたぐるま!?」

()頓狂(とんきょう)な声でキリトが聞き返す。

「だって、いつも同じ高さから見てたんじゃつまんないよ。キリト君の筋力パラメータなら余裕(よゆう)でしょ?」

「そ、そりゃそうかもしれないけどなぁ……。お前、いい歳こいて……」

「歳は関係ないもん!いいじゃない、誰が見てるわけでもないし」

「ま、まあいいけどさぁ……」

キリトは呆れたように首を振りながらしゃがみ込み、背中をアスナに向けた。スカートをたくし上げ、その肩をまたぐように両足を乗せる。

「いいよー。でも後ろ見たら引っ(ぱた)くからね」

「なんか理不尽じゃないか……?」

ぶつくさ言いながらキリトが身軽な動作で立ち上がると、それにつれて視点が一気に上昇した。

「わあ!ほら、ここからもう湖が見えるよ!」

「俺は見えないよ!」

「じゃあ、後でわたしもやってあげるから」

「………」

脱力したように(うな)()れるキリトの頭に手をかけ、アスナは言った。

「さ、出発進行!」

てくてくと歩き出したキリトの肩の上で屈託(くったく)なく笑いながら、アスナは痛いほどの、2人で暮らす日々への愛おしさを感じていた。自分は今、17年の人生の中で一番《生きている》と、疑いもなくそう思えた。





キリトがアスナは肩車したまま小道を歩き出して数十分後、22層に点在する湖の1つに差し掛かった。穏やかな陽気に誘われてか、朝から数人の釣り師プレイヤーが湖水(こすい)に糸を垂らしている。小道は湖を囲む丘の上を通り、左手に見える湖畔(こはん)まではやうやら皆笑顔で、中には声に出して笑っている者もいる。

「……誰も見てなくないじゃん!!」

「あはは、人いたねー。ほら、キリト君も手を振りなよ」

「絶対に嫌だ」

文句を言いながらも、キリトはアスナを下ろそうとはしなかった。内心では彼も面白がっているのがアスナにはわかる。

やがて道は丘を右に下り、深い森の中へと続く。杉に似た巨大な針葉樹(しんようじゅ)がそびえる間を縫って、ゆっくりと歩く。()()れの囁き、小川のせせらぎ、小鳥のさえずりが晩秋の森景色に美しい伴奏(ばんそう)を添えている。

アスナは、いつもより近くに見える木々の(こずえ)に視線を向けた。

「大きい木だねぇー。ねえ、この木、登れるのかなあ?」

「うーん……」

アスナの問いに、キリトはしばし考え込む。


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