第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:ヒトタラシメルモノ
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
うやく、ピニオラは認識し、対面したのだ。
楽しければ笑う、悲しければ泣く、怒りに任せて声を昂らせる。それらの情動に当てはまらない、数多存在する例外のうちのほんの一角。いや、それを感情の為す事象と受け取ることが、ピニオラには出来なかった。
痛くても叫べない、辛くても泣けない、壊れてしまった人間の成れの果て。
常人でも直視に耐えないような痛ましさを理解できていない無垢さがあったからこそ、ピニオラはスレイドを見つめられていたのかも知れない。
「………お前は、どうして俺に執着する」
冷たい声が、ピニオラに向けられた。
射竦めるような視線は、常人のそれではない。
その要因に怯んだわけではないが、ピニオラは答えを返せずに口を噤んでしまう。思い至らなかったのだ。スレイドから向けられた問いについて、ピニオラの中にあると思っていた理由が。あれほどまでスレイドに執着していた理由が、今のピニオラでは正当な価値を見出せなくなってしまっていたのである。
「わたしは、貴方から奪おうとしたんですよ? 貴方に、命を奪わせたんですよ………? そんなわたしに、貴方はどうして、何もしようとしないんですか………?」
しかし、頭を振って否定する。
理由は確かに在る。新たに生じたのである。自身の罪を雪ぐ為に、被害者たる彼は自分に復讐する権利があるのだと、ピニオラは思っていた。しかし、彼の素っ気ない態度にはそれさえも眼中に無い。それでは、誰も報われない。誰も救われない。これまで抱えてきた鉛のような感情と決別するには、この場での清算しか有り得ないと思っていたのに。
「それは間違っている」
否定される。追って、怖いくらい穏やかな声が石壁の室内に木霊する。
「お前は俺に、無関係な相手に罪の意識から解放して楽にしろとせがんでいるだけだ。どうやってそんな風に更生したかは知らんが、駄々を他人に押し付けるな。犯した罪が消えてなくなるなら、俺が真っ先に縋っている。罪人は永遠に罪人のまま。俺もお前も、その事実を背負っていくしかない。…………違うか?」
無慈悲な言葉だと、ピニオラは思った。
鋭利な刃で衣服を肌ごと斬り裂かれたような、熱と冷気の入り乱れた感覚がピニオラの胸に残る。それでもまだ、スレイドは発言を続ける。
「それでもまだ、罪を犯した自分を少しでも許せるようになりたいというなら、自分なりの手段で帳尻を合わせるといい。そんなもの、たかが知れているだろうがな。…………少なくとも、俺は俺の分で手一杯だ。他を当たれ」
感慨もなく、告げる言葉を終えるとスレイドは転移結晶を起動して立ち去ってしまう。
言葉の意味を受け止めて、幾度
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ