第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:ヒトタラシメルモノ
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健在である以上は生存が明白であっても、これまでの恐怖も手伝って温もりに縋るように抱き締める。カラーカーソルの下に麻痺を示すアイコンが点滅していて、それが自由を奪っていると判断する。もっとも圏内に転移してしまえば状態異常も無効化され、ダメージも忽ち回復される。しかし、すぐにこの場から撤退するという選択を下せないでいた。
ここにいる、もう一人。虚空を睨むスレイドに対する何らかの心残りがピニオラを押し留めていた。
「………リン、さん」
呼びかけられ、左の指が微かに動く。
それまでの激情は既に失せ、希薄な無表情を崩すこともピニオラに一瞥を向ける事もない。抜け殻のように生気のない様子でただ茫然と佇む姿は、今のピニオラからして明らかな異常として映る。しかし、掠れるような声で返答されるのは間もなくのことだった。
「用事は済んだだろう。最低限そいつだけは守ったんだ。とっとと此処を引き払った方が良い」
意外にも、それは忠告だった。
端的に述べれば、ピニオラはスレイドの敵である。彼との因縁はそれなりに深いし、なによりも自分は《笑う棺桶》の構成員として活動していた。故にこそスレイドやそれに類する人物達に少なからぬ怒りを買うような所業を働いてきたと自身でも認識している。それらの清算を果たすならば今この場を除いて他は無いだろうとも、同時に認識しているのだ。だからこそ、理解しがたい。剣を収めた彼の真意が、理解できない。
「………どうして」
「どうして俺がお前を殺さないのか、か。随分と謙虚になったな」
虚ろな目はピニオラに向けられることはない。口ごもるピニオラの言葉は呆気なく塗り替えられてしまう。脳裏に浮かんだ疑問をなぞるように言い当てられた事で思わず身を竦める姿にさえ見向きもせず、指が辛うじて残った左手で胸の前まで持ち上げた転移結晶を降ろしつつ溜息を零しながら、スレイドはポツリと言葉を零した。
「お前が殺してきたプレイヤーは俺にとって関係のない他人だ。そんな奴等の敵討ちをしてやるほど、俺は出来た人間じゃない。それだけだろう」
「だとしたら、貴方は何なんですか………関係のない他人の為に抗って、わたしの邪魔をしてきた貴方は何なんですか!? わたしが憎くないんですか? そんな筈ない、だって貴方は………、………!?」
怒り、とは別の激しい情動。
悲しみ、とは異なる切なさ。
言葉にするには余りにも複雑で、だからといって適当な言葉で妥協するには鮮烈に過ぎる感情だった。自身を制御するという点においては相応の自信があったピニオラは、やりきれない思いに耐えかねて声を張り上げる。なりふり構わず、内から込み上げる絶叫をただ思う様ぶつける。しかし、それは唐突に失速して喉で詰まってしまう。
よ
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