第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:ヒトタラシメルモノ
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る。ただ、彼女のAGIであればほんの僅かなものでしかないものの、視界を流れる風景の流れはひどく緩慢に捉えられた。
一歩、また一歩。あまりに短い距離は単調に消化され、とうとう半分を越える。
近付くみことの姿と、未だ遠くにある剣戟。その二つは揺るぎない好条件だったことだろう。多少のイレギュラーに困惑することこそあったが、事態はつつがなくピニオラを後押しする運びとなっている。
だからこそ、慢心が生じる。
これまで張り詰めていた集中が解け、一心不乱にみことへと飛び込もうとしたピニオラの進路上にスレイドが退いた。それまで浮かべていた笑みを僅かに潜め、牙を剥くような鬼気迫る表情で相手を睨み付ける。一歩及ばなかったか、何らかの手を損なったか。推し量るにはそのあたりが妥当であろうが、注視すべき事象は《突然の障害物の出現》という点である。
完全に気が緩み、その隙を突くように現れたスレイドをして、ピニオラは咄嗟に回避しようとするも足を踏み外す。その際に破砕された木箱の破片を踏み抜いてしまうことで、悪手をとることとなる。彼女の《隠蔽》スキルであれば、物音や姿を隠したまま潜入することも容易いが、それはあくまでもスキルの恩恵でしかない。ハイレベルの《索敵》スキルに晒されたならば看破のリスクも当然のことながら発生するし、事実としてスレイドに存在を察知されて索敵スキルを解除させられている。つまり、現状ではスレイド以外のプレイヤーにも可視状態にあるというわけだ。
突如として姿を現した第三者を、スレイドは無害であると即断できるだろうか。
突如として戦線が後退した状態でピニオラが、状況を立て直すに足る手段を行使できるだろうか。
答えは、明確に否であった。
むしろ、そこに生じた一瞬の硬直を、PoHが見逃す筈もなかった。
一足で踏み込まれライトエフェクトに包まれた《友斬包丁》が振るわれる。
当惑するスレイドは逆手から順手に柄を取り直して片手剣で凌ぐよう構えるが、しかしその差は歴然であった。
ピニオラが耳にした金属同士の衝突。甲高く耳に残る音は、その中に何かが砕けるような響きを内包していた。次の瞬間、遠くに半ばから折れた剣先が転がり、立ち竦む足下に柄を握る右腕が落下した。スレイドから分かたれた二つが爆散する頃には、本体たる彼もPoHの蹴脚を受けて吹き飛ばされていた。満身創痍のスレイドに対して、PoHの被った損傷は三筋のダメージエフェクトのみ。火を見るよりも明らかな結末に、ピニオラは不意に込み上げる怖気に身動きが取れなくなっていたことに気付く。
「これで終わりだ。せっかくここまで来たってのに、残念だったな。誰も助けられず、誰にも顧みられずに死ぬって、陰気な幕引きだがリアリティがあっ
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