第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:ヒトタラシメルモノ
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し、その確率は心許ないと言わざるを得ない。むしろ、確実に発生しないばかりか、毒を塗布した刃で戦闘を繰り返すと予期せぬタイミングで状態異常を発生させるという事態も想定し得るのだ。ダメージコントロールにおける不確定要素となりかねない以上は誰も使いたがらない。つまるところ、この世界における毒とはリアルほどの危険性はないのである。誰かの命を奪うには余りにも心許ないというのが多くのプレイヤー間での共通認識といって差し支えなかろう。
仮にあの一振りに、相手のステータスを無視して死を齎す状態異常の根源が潜んでいるとなれば、それもまたピニオラとしては看過できない危険性となる。
押し潰されそうな思いで、嵐のような刃の応酬に視線を向けていると、ピニオラはスレイドの行動のある規則性に気付く。尋常ならざる撃ち合いはさながら混沌の様相を強く印象付けるが、彼は一貫して《あるセオリーを守り抜いている》のだ。
その立ち回りは常に、至近距離での縺れ合いを避けるように。
深追いせず、じわじわと敵へ迫るような挙動は、魔剣たる《友斬包丁》を警戒した上で慎重に手を進めるようにも映るのだが、そもそもPoHに至ってもスレイドの攻撃手段の威力を見極めた上で安全策を取るような様子が伺える。不可解窮まる膠着の答えとなりそうなものは、それこそ《みこと》であった。
スレイドはみことを気にしていない。
PoHとの間にみことを据えず、意図的に背を向けて彼我の距離を遠ざけている。そもそも保護対象が目障りならば、邪魔にならない位置取りさえすればよい。視界にさえ入らないように間合いから排してしまえば、細やかな気配りなどかなぐり捨ててしまえる。しかし言葉にすれば単調ではあるものの、フィールドに湧くモンスターとは勝手の違う《思考する人間》に対しては極めて難儀する。それを可能としているのが、まさに彼の握る片手剣というわけだ。相手が思考する能力を持つならば、彼の振るう剣は抑止力として余りある。その真価を目にしていなければ眉唾にさえならないような絵空事だが、これまでの状況証拠から鑑みても一蹴するには難い。
この状況にも希望があるとピニオラは思考を改めた。なにしろ《スレイドの敵がPoHである》ならば、非力な自分にも勝ち目はある。むしろこうして、みことからPoHを遠ざけてくれているこのタイミングこそ好機だろうと意を決する。
気付けば浅く小刻みな呼吸で息苦しさの増した肺を宥め、呼吸を止めて、深く大きく空気を取り込む。
仮想の肉体である以上、それ自体の不備が生じるのは状態異常のみで、大抵は気の在り方次第でパフォーマンスは大きく変動する。意識が確かに集中されたと判断したピニオラは滑らかな所作で床を蹴った。広間の左右の幅は二十メートル程度、奥行きは実に三十メートルを優に超え
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