閑話
初戀と轍
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、まるで自分と少女だけが流れる時から置いてけぼりにされた空間に封じられたようにさえ思った。
そして、ふと自分はこの舞を何処かで見たことがあるように感じたのだ。
________誰か、自分の愛しい人が何処かの同じような舞台で舞い続け、自分はその舞に併せて竜笛を吹きながら彼女の舞に見蕩れている。
そして彼女は舞い終わると此方に駆け寄り自分は彼女を抱き寄せ、愛おしげにその頬を撫でていた。________
そんな幸せな男女の睦みあう姿が脳裏を過ぎっていった。
その『彼女』が目の前で舞っている少女に面影が重なるのだ。
別に目の前の少女が運命の人とか、そういう風に感じたわけじゃあない。
だが、少女が舞う度にその『彼女』の面影がどんどん濃くなっていくのに目を離すことが出来なかった。
_____気が付けば僕は欄干にから身を乗り出し、必死に少女を目で追っていた。
傍に居た父は一瞥しただけで叱咤するどころか注意もせず自分も少女の舞に視線を戻し、少女の舞を見続けていたのは覚えている。
だが、あの日叱咤されていたとしても僕は欄干から身を乗り出すのをやめなかったと思う、自分の求める何かが少女から発せられているように感じたのだ。
恐らく僕にとって、これが初戀だろう。
所謂、淡くて思ゐ出になるだけの儚い戀ではなく、炎々と燃え盛り年々想いが降り積もっていくような戀。
その舞を見た後日、間もなく僕は神戸家に養子入りし地獄のような毎日を送ることとなった。
そんな地獄のような日々を幼かった自分が送ってこれたのはこの初戀の記憶を糧に生きる希望を生み出していたからだろう。
……いつか自分があの娘に再会し、願わくばこの想いが報われることを願い続けた。
だが、その希望という名の願いはある日唐突に砕け散った。
養子入りしてから約一年後、織田に戻り父と謁見した時のことだ。
父に神戸家の動向を告げていた時、父が目線を僕の後ろに移した。
僕も釣られて振り返ると
そこにはあの日の少女が立っていた。
あの時がこれ迄の人生の中で激しい喜びを感じた時であろう。
父は再び口を開くとこう言った。
……少女、巡音は我が娘となったのだと。
父の娘。
即ち僕からすれば【妹】、そう皮肉な事に僕らは文字通り【妹背】になった。
激しい喜びを感じたと同時に、深い絶望を感じるとは神も皮肉なことをするものだ。
僕は兄弟の【妹背】だと、願わなかったのに。
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