閑話
初戀と轍
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者らとその一族は皆殺し、男らの首は老若関係なく晒し首となり城下の大橋の周辺は凄惨な光景が広がった。
女子供は男共より先に殺され、無造作に塚に埋められたという。
中には捕えられていた際に織田兵から辱めを受け、処刑される前に自ら自害した女らも居たそうだ。
当然ながら男らは自らの娘や妻が辱めを受け、惨めに死んでいったのを見聞きしたのだから穏やかに逝ける訳が無い。
死に際に、ある者は織田家の行く末を呪いながら、ある者は全てを諦めた無の表情をし、またある者はこのような苛烈な事をして何になると織田家を哀れみ死んで逝き、城下に晒された沢山の首は死に顔とは到底思えないなような生々しく、重苦しい表情を浮かべていたという。
その反対に、信孝の許にはあれほど待ち焦がれていた平穏の日々が訪れた、……表向きには。
今まで養父や養母に冷たく扱われ、家中の者らには陰口を叩かれるわ命を狙われるわで居場所のなかった信孝に、まるで追い討ちをかけるように後に残った後悔と罪悪感が重くのしかかっていた。
____他に方法は無かったのか
こんな惨事となるのなら、自分が養子入りする前に潰していた方が神戸の家の者達は後悔も残さず自分の大切な
人と死ねるような、マシな死に方だったのではないか?
そう考えるほどに無惨だったのだ、神戸一族の最期は。
最近はあまり眠れていない、寝ても悪夢に魘されて起きてしまい結局は起きたまま、いつの間にか朝日が照らし始める。
最近、ずっと聲が聞こえるのだ、自分を責め立てる神戸一族の聲が。
___お前のせいで我が一族は亡んだのだ…___________
____全てお前のせいだ…お前のせいで我が一族は…____
今だってそう、延々と耳元で呪い続けている。
酷い時は1人でいる時に『奴ら』が現れ、同じ闇へ引き摺り込もうと足元に黒い『沼』の様に拡がり足を引っ張ってくるのだ。
その度に僕は恩師から貰ったロザリオを握りしめて祈り目を瞑る。
それを合図にと傍にいる『鎧武者』が剣を『沼』に突き立てる。
そうすると『沼』は男にも女のようにも聞こえる奇妙な…気味の悪い叫び声を挙げ消え去っていく。
そして沼が消え去り、落ち着きを取り戻すと何故か、遠い昔の初戀の記憶を思い出すのだ。
生涯、忘れることはないであろうあの情景。
……あれは僕がまだ十二歳の、神戸家に行く前夜のことだ。
_______朱色の舞台の上で車前草紋の千早を纏った『菫色』の眼の可憐な少女が神楽鈴と五色布を用いて舞う姿。
彼女の愛らしい桃の花弁のような唇から紡がれる祝詞が辺りに響き、五色布と共にくるくる廻れば季節外れの花が咲き乱れていく。
咲き乱れる花の真ん中で神々を讃える詩を謳い舞う少女のあまりの美しさに
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