閑話
初戀と轍
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青年は短く揃えた錆色の髪を揺らし、キシキシと軋む木製の階段を登っていく。
階段を登り続ける足元をまるで自分ではない何かが身体を動かしているかのような、そんな錯覚に陥りながら目的の場所である楼閣へ登っていく。
____壁掛けの南蛮鉄で出来た燭台から漏れ出る頼りなげで、不安定な光に照らされる青年の影は青年の姿形とは全く異なる鎧武者の形を象っている。
武者から発せられる漆黒の炎は青年の身を包み青年が今まで溜め込んできた孤独や怨み辛みを燃やし尽くすように火柱を上げている。
だが、不思議なことにその炎が他の物に燃え移ることは無いのだった。
青年の名は織田、あるいは神戸 信孝(おだ/かんべ のぶたか)、第六天魔王・織田 信長の三男である。
彼は幼少期から織田家の繁栄の為に神戸家に養子入りしていた。
無論、そこに本人の意思は存在しない。
全ては織田家の為という意思より、当時男子の居なかった神戸家を乗っ取る為に養子に出されたのである。
養子入りしてまもない頃、信孝は畏怖されては居たものの特に不快な思いをするような事はなかった。
だが成長し、この『影』を引き連れ戦場に出陣するようになってから明らかに周りの目は畏怖と共に嫌悪の視線を向けるようになった。
それ以来、食事に毒を混ぜられたり鷹狩の最中に刺客を送り込まれたりするなど明らかに神戸家は信孝の命を狙う様になる。
その度に彼はその下手人を始末してきた、男女関係なく平等に。
そして何があろうとも彼は平然と何事も無かったかのように振る舞った。
此処で喚き散らそうが味方は誰一人居ない、更にそんなことをすれば気が狂ったのではないかと嘲られ織田家に戻されるのがオチである。
だから敢えて、平然としていた。
自分の居場所を荒らされることがないように、そして何より神戸家の人々を刺激しないように。
だが信孝の今までの苦労を裏切るかのように先日、事件が起きた。
神戸家当主であり信孝の養父であった神戸 具盛(かんべ とももり)が幽閉されていた寺で何者かに暗殺されたのだ。
神戸家中の者は皆、声を揃えて具盛暗殺を命じたのは信孝と言った。
それもその筈、具盛が幽閉されたのは信孝を冷遇したことに怒った信長による命によってなのだから。
しかも具盛が幽閉された後、神戸家の実権を握ったのは信孝である。
その後も信孝は神戸家の実権を握って居たものの当然ながら、神戸家の一族や家中の者は『具盛を殺した張本人が政を行うとは何事だ』と猛反対したものが殆どであった……が、今は反対するものなど誰一人居ない。
強大な力に抵抗した者の末路を見れば嫌でも従わなければ、命はないということを実感したためだろう。
_____神戸一族や一部の反対した家中の
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