暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
凶兆
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して、さっさと本題を話す場所へ連れて行け」というマサキの意図を察したのだろう、アルゴは「今日はとっておきのお店を紹介するヨ!」と豪語し、まだアクティベートされて日も浅い街をすいすいと歩き始める。
 さほどの時間を掛けず辿り着いた目的地は、一軒の隠れ家的バーだった。黒ニス仕上げのフローリングと、同色の丸テーブル、カウンター。どれも経年劣化が隠せていないが、丁寧に手入れされているそれらには良い意味での趣が感じられる。よくもまあ、こんな見つけにくい店を嗅ぎ付けるものだ――と、すぐ前を軽い足取りで進む巻き毛に感心と呆れの混ざった心境を向けつつ彼女に続いてテーブルに着いた。

「で、多忙な血盟騎士団副団長殿まで呼び出して、一体何をさせる気なんだ?」
「いえ、今日はわたしがアルゴさんに頼んで貴方を呼び出したんです」
「何?」

 てっきりアスナも自分と同じようにアルゴに呼び出されたのだと思っていたマサキは、自ら今日の主犯だと宣言したアスナに鋭い口調で聞き返した。

「まーまー、そう焦るなっテ。早い男はモテないゾ? ……そうそうアーちゃん、ここはジャージンソフトが名物なんダ」
「ジャージン? ジンジャーじゃなくて、ですか?」
「ジンジャーの辛味も効いてるんだガ、それと同じくらい濃厚なミルク味のソフトクリームなんダ。多分、ジンジャーとジャージーを掛けたんだろうナー」
「へぇーっ!」

 が、その毒気を抜くように割って入ったアルゴによって、会話の内容をこの店のグルメ談議にすり替えられてしまった。そのまま雑談に花を咲かせ始めた二人を横目に、マサキはテーブルに頬杖をついて溜息を一つ。
 一度スイッチが入ってしまった女性の無駄話は、本人がトーンダウンするまで終わらない。つい最近まで増加の一途だったエミとの時間でマサキが学んだことの一つだ。
 “だった”と過去形にした理由は、彼女の武器を四十八層まで取りに行って以来、意図的に接触を絶っているからだ。そのためここ一週間ほどは家にも寄り付かず、人目に付かない小さな村やダンジョンを転々としている。
 もしもあの夜がなかったなら――彼女との距離に目を瞑ったままでいられたならと考えないではないが、水中に落ちた石が二度と浮かび上がらないように、一度目に焼きついてしまったものは決して網膜を離れない。時間を掛けて忘れるという機能さえ欠落したマサキに取れるのは、新たな記憶の蓄積を防ぐことだけだ。

「もう雑談はいいだろう。そろそろ本題に入ってもらいたいんだが」
「ハァー、仕方がないナー、マー坊は。実は……」
「それについては、わたしから説明します」

 やれやれと両手を広げて答えようとしたアルゴを制し、アスナが頬をきりっと引き締めて言った。その冴え渡る抜き身の刃の如き凛とした表情は、たった今まで見せていた少
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