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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
巡航艦ツェルプスト〜ヨハン・マテウスの回想
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人よりも犯罪者のほうが似合いそうな脅し文句だった。バルツァー船長は最後は泣きながら許してくれと懇願して、中佐は“興が冷めました”と言ってバルツァー船長をいたぶるのを止めた。つまらなさそうだった。
多分、お嬢の本当の狙いはバルツァー船長じゃない。お嬢を見くびっていた俺達乗組員を脅し上げることだ。自分を見くびるとどうなるか、バルツァー船長を見てよく覚えておけ、そう言いたかったんだと思う。実際パラウド号に行った連中は皆お嬢に怯えていたからな。きっとそうに違いない。
帝国暦484年 7月15日 オーディン ヨハン・マテウス
「やったじゃない、昇進ね、ヨハン」
「うん」
オーディンに帰ってくると、俺達を待っていたのは昇進だった。何といっても皇帝陛下の財産を不届きな盗賊から守ったんだ。当然と言える。俺は二等兵から一等兵に昇進した。姉も喜んでくれた。
「ねえ、サイン貰えないの」
「無理だよ、姉さん。前にも言ったけどヴァレンシュタイン中佐は艦長兼司令で忙しいんだ。サインくださいなんて言えないよ。仕事の邪魔しちゃいけないだろう?」
「うーん、残念」
残念そうな姉の表情を見ると胸が痛んだ。ごめん、姉さん。でも中佐のサインなんか貰っちゃ駄目だ。呪われるぜ、絶対祟りがある。一生結婚できないとか、三代先まで早死にするとか。中佐は山猫にくれてやれよ、その方が絶対幸せになれるから。
「ねえ、俺達中佐を除いて全員昇進したけどさ、中佐はどうなるの。勲章貰ったみたいだけど」
「中佐の昇進は十月よ、人事異動に合わせて昇進するの」
「?」
「昇進が早すぎるから本人のためにならないって言う事。凄いわよね、昇進が早すぎるなんて」
「へー」
確かに凄い。俺も一度で良いからそういう扱いを受けてみたいもんだ。
「多分異動もあるんじゃないかな、何時までも巡察部隊にはいないわね」
「そうなの」
「そうよ。今年はサイオキシン麻薬の後始末で外征はなかったけど来年は有るわ。多分中佐も出征するんじゃないかしら」
「……」
「あんた、まだ前線に出たいの?」
「いや、俺は巡察部隊で良いよ。前線は中佐みたいな人に任せるさ」
「そうね、あんたみたいな凡人はそれが一番よ。今の世の中、生き残るのは大変なんだから」
そう言うと姉はクスクス笑い出した。正直面白くはなかったけど、姉の言う事が幾分か分かるような気がした。あんな化け物みたいな人間の居るところには近づきたくない。命が幾つあっても足りはしないからな。中佐が異動になるなら俺は巡察部隊でいい。平穏なのが一番だ……。
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