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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
巡航艦ツェルプスト〜ヨハン・マテウスの回想
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、直ちに宙域八一七に向かう。軽空母ファーレンに命令。ワルキューレを出し偵察行動をさせるように」

あー、ヴァレンシュタイン中佐が命令を出したが、声は少し高いし、それに全然威圧感が無い。これじゃあ、いまいちなんだよな、緊張感ゼロ、ヤル気でねえよ。

中佐は艦長席で御行儀良く座っている。小柄で華奢な中佐は遠目には女の子のようだ。ワーレン少佐と比べると余計にそう見える。サイオキシン麻薬、アルレスハイムの会戦では功績を挙げたと言われているけどとてもそうは思えない。

当初この艦に来た中佐は殆ど艦長としての職務も部隊の動かし方も分からなかった。ワーレン少佐が付きっ切りで教えていたがその様子はまるで何処かのお嬢様と使用人だった。あれじゃワーレン少佐が気の毒だと皆で思ったものだ。

まあ、それでも熱心に覚えていたから二月もすれば任務をこなせるようになっていたけど、飲み物はココア、ピーマンとレバーが嫌いって何だよ、まるで子供じゃないか、皆大笑いだった。俺達乗組員の中佐に対する評価は“お嬢”だ。姉さんには悪いけど馬鹿くさくってサインなんか貰えるもんか、冗談じゃない。姉さんから貰った色紙十枚は俺の部屋に放置したままだ。




「どういうことだ、何故積荷の確認が出来ない?」
「はっ、それが、船長が反対しているのです」
「こちらは公務だぞ、何を考えている」

ワーレン少佐が少し眉を寄せて呟いた。かっこいいぜ、なんとも言えない渋さだ。男はこうじゃなきゃ。俺も言ってみたいぜ”こちらは公務だぞ、何を考えている”。

駆逐艦ラウエンが民間の交易船パラウド号に積荷の臨検を通知してから一時間経ったけど、まだ臨検が終わらないようだ。兵を派遣したけれど、どうもパラウド号の船長が臨検に反対しているらしい。

埒が明かない、誰かが向こうに行って指揮を取り直すべきだ。そうは思ったけどヴァレンシュタイン中佐が交易船パラウドに自ら臨検に行くと言い出したときには何かの冗談だと思った。パラウド号では何かトラブルが起きているのは間違いない。お嬢に解決できるもんか。

お嬢、お嬢はツェルプストで大人しくしてればいいんだよ、所詮は飾り物なんだから。俺も同行者の二十名の中に選ばれた時には罰当たりだとは思ったけど心の中でオーディンを罵ったぜ。

俺も不安だったけどワーレン少佐はもっと心配だったんだろう、中佐に同行してくれた。正直ほっとしたね、少佐が一緒なら何とかなるからな。さて、パラウド号に向かうとするか。


帝国暦484年 5月23日 交易船 パラウド  ヨハン・マテウス


「バルツァー船長、コンテナから妙な物を見つけましたよ。御禁制のトラウンシュタイン産のバッファローの毛皮十枚。あれは一体どなたからの依頼ですか、教えていただけると助かるのですが」

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