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蝸牛
第一章

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                 蝸牛
 ある日のことです、仁和寺の近くの主の家に住み込んでいる太郎冠者は主に用を言い付けられました。
「山に蝸牛という生きものがいると聞いた」
「蝸牛ですか」
「そうじゃ、何かを背負って角があるそうじゃ」
 主は頭の横に人差し指を立てた両手をそれぞれ置いて説明します。
「角がな」
「角があるとは牛ですか」
 太郎冠者は最初はこう思いました」
「それは」
「違う、蝸牛じゃ」
「ですから牛の一種では」
「わしもそこまでは知らぬ」
 何ともつれない感じの主の返事です。
「しかし何か背負っておる」
「背負っていますか」
「この前坊さんに聞いた、山におって何か背負っておってな」
「そして角がある」
「そうした生きものじゃ」
 主はまた太郎冠者に話しました。
「そしてその蝸牛をじゃ」
「はい、その蝸牛を」
「わしの前に連れて来るのじゃ」
「つまり主殿は蝸牛を見たいのですな」
「そうじゃ」
 その通りという返事でした。
「わかったな、ではじゃ」
「はい、ではこれから近くの方に次郎冠者と共に行ってきます」
「そうせよ、して次郎冠者は何処じゃ」
「今は便所です」
「そうか、すぐに帰って来るな」
「本人はそう言っていました」
「よし、では次郎冠者が戻ればじゃ」
「すぐに山の方に行きます」
「ではな」
 かくしてでした、太郎冠者は次郎冠者と共に山まで行って蝸牛を見付けてそのうえで主に見せることになりました。次郎冠者が便所から戻ると本当にすぐに行きました。
 その山ではです、二人の山伏達が昼の修行を終え一息ついていました、そのうえで山の泉のところで水を飲んでいました。そのうえでこんなお話をしていました。
「この昼もよく修行をした」
「全くだ」
「では今から水を飲んでな」
「少し休むか」
「そしてその後でな」
「また修行をしよう」
「修行をしてこそだ」
 まさにというのです。
「山伏だからな」
「どんどん励まねばな」
 こうしたことをお話していました、その二人の山伏達のところにです。
 太郎冠者と次郎冠者が来ました、次郎冠者は山道を進みつつ太郎冠者に聞きます。
「蝸牛は何か背負っておるのじゃな」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 ここで太郎冠者は両手の人差し指を出して頭の横にやって言いました。
「角があるのじゃ」
「角か」
「そうじゃ、それがあるのじゃ」
「ふむ、それが蝸牛か」
「そうらしいわ」
「そしてその蝸牛を見付けてな」
「主殿のところに連れて行けばいいのじゃな」
 次郎冠者はあらためて太郎冠者に尋ねました。
「それが今日のわし等の仕事じゃな」
「その通りじゃ」
「わかった」
 次郎冠者は頷いて答えました。
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