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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
巡航艦ツェルプスト艦長兼第1巡察部隊司令 (その4)
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です」
「ちょ、ちょっと待て、話す、全部話す、だから……」
「必要有りません」
「……」
“必要有りません”、その言葉にバルツァー船長は驚いたように中佐を見ている。その様子が可笑しかったのか、中佐は先程までの無表情を捨てクスクスと笑い始めた。
「迷惑なんですよ、今更話されても。私の楽しみを奪うんじゃない」
笑いながら話す中佐に周囲が凍りついた。
「止めろ、俺には家族が居るんだ、妻と娘が」
「直ぐ会えますよ、ヴァルハラで」
「!」
呆然として中佐を見詰めているバルツァー船長にヴァレンシュタイン中佐は笑いながら哀れむような視線を向けた。
「貴方の雇い主がヴァルハラで一人では寂しいだろうと直ぐ家族を送ってくれますよ、 心配要りません」
「そんな、馬鹿な」
「生き残った乗組員に対する警告にもなりますからね。失敗すればどうなるか……。納得しましたか? バルツァー船長」
嘲笑混じりに話す中佐にバルツァー船長は頭を抱えた。そして呻き声を上げながらその場に蹲る。
「頼む、助けてくれ。全部話す、だから殺さないでくれ、家族を助けてくれ、頼む」
顔を上げたバルツァー船長は泣いていた。縋るような表情でこちらを見てくる。
うんざりした。さっきまで傲岸に振舞っていた男が今は泣いて縋り付いてくる。ヴァレンシュタイン中佐も同感だったのだろう、呆れたような表情をしている。
「興が冷めました。ワーレン少佐、後はお任せします」
「よろしいのですか?」
「少佐はバルツァー船長を殺すのに反対なのでしょう。幸い全部話すと言っています。調書を取ってください」
その言葉にバルツァー船長が喜色を浮かべてこちらを見た。
「少佐、その男が供述を渋るような事があれば言ってください。いつでも自殺させて上げます。よろしいですね」
「はっ」
ヴァレンシュタイン中佐はバルツァー船長を一瞥すると、足早に倉庫を後にした。
帝国暦484年 5月23日 巡航艦 ツェルプスト エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
交易船パラウド号からツェルプストの艦橋に戻ると直ぐにオーディンに居るケスラーに連絡を取った。この件は大事件になる、捜査は憲兵隊が引き継ぐ事になるだろうがしっかりした人物に引き継いでおかないと有耶無耶になりかねない。
俺はバルツァー船長の言葉を全面的に信じているわけではない。海千山千の犯罪者なのだ。彼らの強かさを甘く見るのは危険だ。殺されると思って芝居をした可能性が有る。今頃はワーレン相手に嘘をペラペラ喋っているかもしれない。
「やあ、ヴァレンシュタイン中佐、久しぶりだな」
「お久しぶりです、ケスラー大佐。お元気そうで何よりです」
「有難う、ところで何の用だ。挨拶が目的じゃないだろう」
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