第一章
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恋女房
海野ふぐ、海野あんこうは漫才師のコンビだ。二人共剽軽な顔立ちに優れた漫才のセンスそして漫才にかける情熱でデビュー早々お茶の間の人気者となった。
その芸は秀逸であり漫才をしてもお客さん達はいつも笑いの渦に包まれた。
二人の付き合いは高校での落語研究会からのものだった、二人の通っていた高校の落研は漫才もしていたのだ。
それで海野ふぐ、本名谷崎幸太郎は海野あんこう、本名与謝野慎吾と二人でよくこうしたことを話していた。
「若しわし等高校で一緒にならんかったら」
「デビュー出来てたか、か」
「わからんやろな」
「そやな、わし等の漫才はな」
あんこうも言う、その名前通かなり大きな口で目は小さい。ふぐも目は小さいが顔は芸名通りかなり膨らんでいる。
「二人でやるもんでな」
「ピンやないからな」
「ピンでやったら」
漫才が終わった後の楽屋でだ、あんこうは腕を組んで考える顔で言った。見れば衣装はかつてのやすきよのそれをオマージュしたスーツだ。
「あかんか」
「はっきり言うで」
ふぐはあんこうに言った。
「わしも御前も高校で落語やったらどうやった」
「ピンか」
「今一やったわ」
「そやな、わし等の芸はやっぱりな」
「二人でやるもんや」
つまり漫才だというのだ。
「ピンではあかんもんや」
「泥鰌と牛蒡やな」
「アホ、そこで関東出すな」
ふぐは舞台のノリであんこうに返した。
「そこはうどんと揚げやろ」
「けつねうどんやな」
「そや、わし等はそれや」
「どっちがうどんでどっちが揚げや」
あんこうも漫才で返す、こうして普通に漫才のやり取りをやってしまうところに二人の天性のものがあった。
「それで」
「そこまでは知らん、わからん」
「わからんで言うてるのか」
「悪いか」
「悪いわ、けれどわし等は二人で一人やな」
「そや、若し一人ずつやと」
それこそというのだ。
「わし等ここまでならんわ」
「二人でやな」
「お互いもう結婚してかみさんもおる」
それで別々に暮らしている、デビュー当時の金がない時は二人でボロアパートに住んでいてアルバイトにも精を出していた。
「けれどわし等はや」
「二人でやな」
「一人、やすきよやいとしこいし並にか」
それか、というのだ。
「越える漫才出来るで」
「やすきよもいとしこいしも越えるか」
「そや、世界一の漫才師になれるで」
「二人やとか」
「そやからやってこな」
「これからも二人やな」
「喧嘩してもな」
実は喧嘩することも多い、しかしだ。
二人はその都度すぐに仲直りしている、その辺りの絆の強さと深さも漫才コンビとして上手にやっていけている秘訣だ。
「それでもや」
「やってこか」
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