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渦巻く滄海 紅き空 【上】
百十三 時越え
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の映像を垣間見る紫苑の視線の先で、【魍魎】が弥勒の背後にいる幼き紫苑の姿を捉える。
紫紺の闇の奥で【魍魎】の辛うじて眼とわかる赤い光がゆうるりと細められた。
『あくまで我の邪魔をするというのなら、弥勒…―――』


血の如き赤い眼が幼き紫苑を認める。【魍魎】の意図を察した弥勒が振り返って我が子を呼んだ。
「紫苑、鈴は…ッ!?」
「えっ、あ……」


いつもなら身につけているお守りを、あろうことか、幼き紫苑はこの時、手にしていなかった。
常に肌身離さず持っている鈴を、その日に限って置き忘れてしまったのだ。


標的を定めた闇がにんまりと嗤い、そうして弥勒の背後へ紫炎を吐き散らす。凄まじい速さと勢いのある火炎は、小さくか弱い未来の巫女を瞬く間に?み込んだ。

宙を舞う火花の中で、【魍魎】は弥勒の大事な存在をあっさり奪い去った己の力に酔い痴れる。
だが、幼い紫苑に殺到した紫の炎は、すぐさま掻き消された。


他でもない、紫苑の母――弥勒によって。



「巫女の力、侮るでない」
闇である【魍魎】にとって忌々しき光。その中で、弥勒の凛とした声が響く。
紫苑を庇った弥勒の身体から、眩いばかりの光と力が溢れている。


神々しい光を身に纏う弥勒は、先ほど彼女が立っていた場所とは遠く離れていたはずだった。
紫苑の救出に決して間に合う距離ではない。

しかしながら、実際に紫苑を庇い、己の前に立ちはだかる弥勒の姿を見て、【魍魎】は苦々しげに唸った。
『そうか…なるほど』

得心がいったとばかりに、【魍魎】の赤い眼が眇められる。元々は巫女と同一の存在である【魍魎】は即座に、この不可思議な現象の謎を解明した。
同時に、紫苑も悟った。


母の弥勒が如何にして、幼き自分を救ったかを。
そしてそれが、【魍魎】を封印する覚悟故の力である事も。

その後、【魍魎】を封印する為に、弥勒があえて【魍魎】の中に取り込まれたという事実を、紫苑は察した。
現在、【魍魎】に呑み込まれた自分と同じく、母もこの闇に囚われ、そうする事で【魍魎】を封印し、紫苑を、鬼の国を、世界を守ったのだ。

元は一つであった存在故に、【魍魎】は巫女を殺せない。同じく巫女も【魍魎】を消し去るほどの力は無い。
【魍魎】を封印するには、【魍魎】と一つになる事を受け入れ、その一部になるしかすべはない。だから母の弥勒も世界を守る為に自らを犠牲にしたのである。
【魍魎】を完全に消し去るには、弥勒より、いや今まで生きてきた巫女達以上の強大な力の持ち主が必要であった。




過去の【魍魎】が、幼き紫苑を庇う弥勒に告げる。
『弥勒、貴様…命を懸け、時を――――』

その声に合わせるように、紫苑は叫ぶ。
鈴が放つ光の中で映し出さ
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