第一章
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怪物不在
柳本咲はよりによってクラスでスポーツ新聞を読みながらだ、これ以上はないまでに不機嫌な顔をしていた。
そして自分のスマホも出して情報をチェックしてだ、また言った。
「WBC暗いわね」
「そう言っても仕方ないだろ」
「いい加減その話止めろよ」
男子のクラスメイト達がその咲に突っ込みを入れた。
「大谷さん捻挫したんだからな」
「出られないのも仕方ないだろ」
「もう諦めろよ」
「それじゃあどうしようもないだろ」
「確かに大谷さんはとんでもない強敵よ」
咲はソフトバンクファンとしてまずはこう言った。
「こんなのどうして打てるのかっていうボール投げてしかも打って」
「だからソフトバンクは負けたよな」
「もう全然打てなくてな」
「それは事実だな」
「御前あの時も荒れてたな」
「そうよ、けれどとんでもない強敵はね」
それこそどうしようもないと思える位のだ。
「味方になれば最高でしょ」
「これ以上はないまでのな」
「すげえ頼りになるな」
「実際今回期待されてたしな」
「柱になってもらう予定だったしな」
「その柱がいなくなったのよ」
見ればスポーツ新聞の記事もスマホのそれもどっちも大谷についてだった、咲は完全にソフトバンクモードからWBCモードになっていた。
「これは由々しき事態よ」
「それは俺も思うよ」
「俺もだよ」
「けれど学校でスポーツ新聞なんか読むな」
「女の子だろ」
「安心して、家で取ってるのだから変な記事はないわ」
所謂風俗関係はというのだ、スポーツ新聞には付きものの。
「そういうのはね」
「それはいいけれどな」
「女の子が読むなよ」
「何処の親父だよ」
「せめて家で読めよ」
「いいじゃない、それよりもよ」
自分のことよりもというのだ。
「問題はこの件よ」
「大谷さんの穴な」
「それをどう埋めるかか」
「ダルビッシュさんもいないし」
「それは確かに問題だな」
「はっきり言ってあの人は怪物よ」
咲は自分の席からはっきりと言い切った。
「前シーズン後半はもう愕然ってなったわ」
「御前あの時もう完全に白旗挙げてたな」
「打てないってな」
「どうしようもないとも言ってたな」
「こんな化けものどうにもならないってな」
「しかも打つから」
バッターとしても一流だというのだ。
「余計によ」
「凄いっていうんだな」
「ずっとそう言ってるけれどな、御前」
「勝てる筈がないってもな」
「ええ、正直諦めたわ」
勝つことはというのだ、ソフトバンクが。
「あの時は」
「咲あの時かなり飲んでたわね」
未晴がその咲に横から言ってきた。
「もうこれは負けたって」
「ああ、あの人が一四七キロフォーク投げ
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