第18話(改1.7)<タフガール>
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「おいおい、これも記録するか?」
私は慌てた。
「あ、オフレコですから」
ニタニタしつつ鉛筆を動かす彼女。
「これは青葉の極秘メモですぅ」
敬礼して、おどける。
「頼むよ」
私は脱力した。
すると祥高さんも車を降りて私の隣に立つ。
「……」
しばらく、その場に居る誰もが無言で大山を見詰めていた。徐々に日が傾き弓ヶ浜には涼しい風が吹き始める。
祥高さんは総括するように言った。
「司令が着任されて海軍はきっと、この美保から大きく変わっていくと思います」
「そうだな」
反射的に、そう応えた。
だが、その時分の私は、まだ何も分かっていなかった。秘書艦の言葉の重さを後から痛感することになる。
腕時計を見て祥高さんは微笑んだ。
「そろそろ戻りましょうか? 司令」
「ああ、そうだな」
彼女は青葉さんに目配せする。青い髪の少女は敬礼をした。
「アイ、では鎮守府へ戻ります」
私たちが車に乗り込むと発動機が軽快な振動とともに始動する。西からの真っ赤な夕日を浴びながら軍用車は鎮守府へと向かう。
埋立地に戻る頃には空に星が見え始めていた。
私は正面玄関前で車を降りた。見上げると美保鎮守府の建物は堂々とした佇まいを見せていた。
敷地内では訓練を終えた艦娘たちの点呼や片付け作業をする者の声が響く。また通路では食堂へ向かう者、哨戒任務に付く者たちと慌(あわただ)しい雰囲気だった。
私は秘書艦と共に二階の執務室に戻った。
祥高さんが報告する。
「美保鎮守府の資料が完成しました」
「ご苦労様」
受け取った私はパラパラと眺めた。 さすがに今はちょっと疲れたから時間をおいて確認しよう。
空には夕日で真っ赤に染まった雲が浮かんでいる。私は手を休めて呟いた。
「綺麗だな」
八雲という地名が象徴する出雲地方は夕方、綺麗な雲がよく出る。
この建物の周りでも夏の虫がリンリンと鳴き始めた。開いた窓から心地良い風が吹き抜ける。
「風鈴でも吊るしたくなるな」
「司令の宿舎は、この建物の裏手にある別棟の二階です」
私の想いとは無関係に祥高さんが説明する。
「構内電話や非常用の無線機、小火器類も備え付けられています。また非常口が二ヶ所あります。後ほど現地で、ご確認下さい」
「分かった」
ここは鎮守府だと改めて実感した。
「基地内では落ち着かないと仰って、お住まいは外に準備する歴代司令も居られましたが」
「はぁ」
ここで一旦、間を置く祥高さん。
「この辺りでは借家も無くて結局、外に住まわれると通勤時間が長くなって億劫になるようです」
「分かるなあ、ソレ」
私は苦笑した。
軍司令なら軍用車での送迎も有り
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