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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 41
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 「では、裁決! の、前に……」
 首を伸ばして噛み付いてきそうな顔の暗殺者から、ハウィスの腕を抱えている少女へと視線を移す。
 「ねぇ、アルフィン。ハウィスはリアメルティの領主様なんだって。貴女、知ってた?」
 「……領主さま?」
 「そう。村長様よりも偉い人」
 ミートリッテを見て、ハウィスを見て……もう一度ミートリッテを見たアルフィンは、頭を振って「否」を返した。
 「そっか。でも、偉い人のお仕事を邪魔したら厳しい罰を受けなきゃいけないって事は……解るよね? それでもハウィスの腕を離す気は無い?」
 ハウィスは「領主として」断罪の剣を掲げた。
 その腕を力ずくで止めるという事は、領主……延いては彼女の後ろ楯である王子への反抗だ。目撃者も十人を越える、言い逃れ不可能な公務執行妨害罪。
 普通なら、例え未成年でも一般民が王族の決定に逆らって見逃される筈がない。良くてアルフィン一人の極刑。最悪、監督責任を問われたグレンデルも一緒に処刑されてしまう。
 イオーネも気付いているのだろう。アルフィンがぎこちなく頷くと同時に、肌を刺激する殺気が一段と膨れ上がった。(やすり)で軽く撫でられていた所を小針でザクザク刺され出した気分。
 アーレストが抑えてなかったら瞬きの間に殺されてたな……と、内心で冷や汗を垂らしつつ、アルフィンとの会話に集中する。
 「貴女のお願いを聞いたハウィスが剣を退いてくれても、良かった……で終わる話じゃないんだよ? イオーネは、王国軍が辺境へ出動するほどの騒ぎを国内外で起こした犯罪者。アルスエルナが捕縛した場合、一定期間はアルスエルナ軍の監視下に置かれ、身の安全も保障される。でも、その後は? アルスエルナとバーデルの両国で罪を犯した彼女には、解放された後に帰る家も仕事もお金も、国境を越える権利も一切無い。だからと言って、不穏な思想の持ち主を野に放つのはあまりにも危険すぎる。なら、最終的にどうするか……分かる? 落し物は「軍が処分する」か「拾った人間に譲渡される」の。つまり、命を掬いたいと願った分、貴女にも相応の責任と辛苦が求められるのよ。貴女、イオーネの言動を全部背負える? 自分一人でも生きていくのが難しいのに、これから先ずーっと、自分とは違う生命の維持に務めていける? きっと想像以上に辛くて悲しい思いをするし、現実問題どうしたってお金が関わる話だもん。体にもすっごく重たいよ。第一、貴女はまだ就労を認められない子供。貴女に掛かる負担は総て、保護者であるグレンデルさんの負担になってしまうの。貴女がイオーネの事で苦悩する度、グレンデルさんも貴女とイオーネの事でたくさん心を砕かなきゃいけなくなる。此処で半端な覚悟を見せた結果、莫大な負債を抱えたグレンデルさんが貴女の代わりに死んでしまう可能性も、絶対に無いとは言い切れないんだ
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