第二話『幽玄の奏者』
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のようなものがあったり、孤児だったところを今のお母さんに拾ってもらったり、人と違う境遇ではあったかもしれない。でもだからって、こんな光景とは少なくとも無縁だった筈だ。
『――未だ才咲かぬマスター。申し訳在りませんが……その才、花開く前に枯れて頂きます』
突然に現れた、漆黒の肌をした髑髏の面の女。突然に訳の分からない事を言った彼女は流れるように、その懐から短刀を抜いた。
何故、それを躱せたのかは分からない。何か体に妙な脱力感が襲ってきている事と、何か関係があるのかもしれない。けれど、逃げても逃げても、髑髏面は追いかけて来た。私が一体何をしたというのか、私が一体何だと言うのか。何故、私が命を狙われなければならないのか。
この、右手に輝く紅い紋様は何なのか。
「しかし、しかし。我が最期、我が救いの恩義とし、人として、神として、成すべき仁義は忘れまい。であればこそ、私は貴女を護り、貴女を癒す音色となろう」
疑問はいくつもある、理不尽に対する嘆きはいくつもある。けれど、今は目の前に在る不思議な光景にただただ目を奪われていた――否、心を奪われていた。
私を殺さんとして迫った髑髏面の女は、今は私の視線の先で警戒しているかのように構えている。その警戒の相手は、勿論ながら私ではない。私と彼女の間を阻むように現れた、この不思議な雰囲気を纏った青年である。
肩よりも少し長く伸ばされた藍色の髪、真っ白なローブに包まれたしなやかな体。そして何よりも特徴的なのは、その体を半分を覆うかと言うほどの巨大な『竪琴』。
その美しい音色が冷たいソラに響くと同時に、髑髏面が投げる短刀が悉く弾かれていくのだ。
まるで癒しが、新たな傷を拒むかのように。まるで華やかな音色が、無粋な金切り音を弾き出すように。
彼は、謳う──。
「――サーヴァント、キャスター。貴女の助けの声を標べとし、此処に。我が音、我が謳を、貴女に捧げよう、マスター」
──幽玄の奏者は、今此処に。
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