第8話(改2.5)<美保鎮守府>
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応するように憲兵さんが続けた。
「地元出の大臣さんが企業誘致を目論んで埋め立てたんですよね」
「そうだな。でも結局は深海棲艦の出現で、その夢も頓挫したが」
ただ、お役所仕事の面白いところは一度決まったことは粛々と実現していくことだ。気付いたら私が故郷を離れている間に、こんな広大なものが出来ていたわけだ。
「これは無用の長物なのだろうか」
その言葉に憲兵さんは肩をすくめた。
そして私たちは苦笑した……埋立地の話題を出せば地元の大半の人たちが同じ反応を見せるだろう。
信号が変わり再び軍用車は走り出す。広大な埋立地の潮風を受けながら私は考えた。
(もし、この戦争がなければ、この場所には、お店や工場が建ったかも知れない。ただ普通の鎮守府は無理だな)
「ああ、あれです」
憲兵さんの言葉で直ぐに赤い建物が見えてきた。
「美保鎮守府か。レンガの雰囲気は海軍だが規模は小さいな」
この埋め立て地では仕方がない。隣の寛代は無言のまま車窓の外を眺めている。
私は事前に聞いたことを思い出す。
(ここは艦娘だけの鎮守府……)
なぜ、そうなったか?
誰かが働きかけたのか……確かに艦娘だけなら広くない埋立地でも設置は可能だが。
この地域には既に空軍と陸軍の基地がある。敢えて正規の鎮守府を誘致する必要もない。私は自問するように呟く。
「とりあえず、この小さな鎮守府が答えというわけか」
だが軍用車が美保鎮守府の敷地内に入って驚いた。門が無く道路から直接、玄関前まで入れたのだ。
「守衛も居ないのか?」
私と同様、少し驚いた憲兵さん。
「ここですか……実は自分も初めてであります」
思わず苦笑した。
(同じ弓ヶ浜半島にある陸軍の憲兵ですら初めて来るのか)
鎮守府ながら敷地にはクレーンすら見えない。それに入口からして無防備だ。改めて説明されないと鎮守府ということすら見逃しそうだ。
(まさか意図的に、こんな状態にしているのだろうか?)
……まるで人目を避けるように。
軍用車は正面玄関に横付けした。私は一つしかない鞄を抱えた。実はもう一つの鞄もあったが空襲で焼けてしまった。
「降りよう」
「……」
私と寛代は軍用車を降りた。
「助かったよ」
私は憲兵さんに軽く敬礼をした。
彼は一瞬驚いた後、慌てて車を降りた。そして敬礼をしながら言った。
「閣下、何かあったら、いつでもお声かけて下さい!」
「ありがとう」
私と寛代は玄関前で彼に別れを告げた。最後まで忙しい憲兵さんを乗せた陸軍の車は門のないゲートから外へ出た。
それを見送りながら私は何気なく寛代に言った。
「生真面目で親切な憲兵さんだったな」
ふと見ると彼女も少し笑顔になっ
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