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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 40
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 瞬く星を散りばめた黒い空。光輝く真っ白な月。ゆったりさらさらと流れる河。動かない騎士達。動かない王子。動かない神父。動けない暗殺者と怪盗と負傷者。
 異様な空気の真ん中で「二人分の」制止を振り切った刃だけが、動けない獲物へ向かって上から下に真っ直ぐ……
 下りなかった。
 (……え?)
 自分の声と重なった絶叫。口を開いて茫然とする顔。中途半端に前のめりな姿勢で固まった背中を何事かと凝視すれば、イオーネ達とハウィスの間に割り込んだ小さな人影が、剣を構えた腕にがっちりとしがみ付いている。
 「ダメ!」
 「な……っ ど、どうして此処に……」
 「殺しちゃ、ダメッ!」
 小さな影は金色の長い髪を振り乱し、日常では聞いた例が無い大きな声で繰り返し叫んだ。
 その女の子らしい高い声を聴いて漸く、影の正体に気付く。
 「……アルフィン!?」
 暗殺者達に隠されてしまった少女が突然現れ、イオーネを斬ろうとする刃の前に飛び出した。
 考えるまでもなくベルヘンス卿の仲間に助けられて此処まで来たのだろうが……一歩間違えれば自身が斬られる可能性もあったのに、なんて危ない真似をするのか。
 肝を冷やす大人達の慌てた目線に構わず、アルフィンはイオーネを殺すなと一所懸命に訴え続ける。
 「アルフィン……」
 「……っ退きなさい、アルフィン! お前が口を挟んで良い場面ではない!」
 言葉を失い狼狽えるハウィスとは正反対に、イオーネは怒声を張り上げて小さな背中を睨み付ける。
 が。
 殺気混じりの叱責にも動じず、アルフィンは何度も何度も嫌だと頭を振った。
 「イオーネさんは私に優しくしてくれた! 笑い掛けてくれたんだもん! ハウィスさんがイオーネさんを殺すなんて、そんなの嫌だ!」
 「アルフィン!」
 (……優しく、された?)
 初めて聞く少女の必死な涙声に、先刻見届けた一幕を思い出して眉を顰める。
 アルフィンはイオーネに傷付けられ、怯えていた。
 優しくされたと言うのなら、きつく閉じたあの目蓋は……細い腕に伝い落ちた血はどういう事だ。
 「何を……アルフィンに何をしたの、イオーネ! なんでアルフィンが」
 まさか、王子みたいに暗示か何かを仕掛けたのか。
 ミートリッテが非難めいた口調で問えば、アルフィンが即座に否定する。
 「イオーネさんは何もしてない! 刃物は怖かったし、手首を掴まれた時はちょっと痛かったけど……でも、それだけだよ!? 神父様と一緒にご飯を食べたり、私の本当のお母さんの話をしてくれただけ!」
 「ちょっと痛かった!? 血が流れ落ちるほどの怪我をさせられたのに!?」
 「私の血じゃないの! あれは……」
 「黙りなさい、アルフィン!!」
 じたばたと暴れ出すイオーネを背に、アルフィンは自身の右手を精一杯
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