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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第三十七話 眠れない夜を抱いて
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女を抱き寄せた。
「赤城。辛かったら――。」
「ええ!!辛いです!!」
葵の胸に顔をうずめて赤城が叫んだ。
「私は行きたくはない!!目の前で仲間が死んでいくところなんか見たくないんです!!」
嫌々をするように赤城が顔を振った。
「さげすんでくださって構いません!臆病者だって罵倒してくださって構いません!!そんなことは明日は決して言いませんから!!だから、だから、今ここで全部――。」
だからなのだ、と葵は思った。双璧の加賀ですらを拒んでここに一人来たのは、全部吐き出してしまいたかったのだと。
「あなたには私の大切な人たちを見せてもらった。今度は私があなたの力になる番よ。」
元連合艦隊総旗艦は機動部隊旗艦の髪を優しくなで、彼女をいつまでも抱きしめ続けていた。





深夜12:00。出撃まで6時間。マリアナ諸島司令部執務室にて――。
 眠れなかった。様々な不安と思いが頭や胸の中にぎゅうぎゅうと渦巻いていてちっとも眠れやしない。何度かベッドの上で寝返りを打ったが、次第に瞼を閉じることも億劫になった。いっそ起きてやれと思い、執務室に戻って窓を開けた。さわやかな夜の風が吹きこんできて、少しだけ不安な心を沈めてくれた。俺は窓枠に体をもたせ掛けて外を眺めた。相変わらずだな、夜の美しい星々の下青い海が輝いている。この光景を俺は何度となく眺めてきた。ある時は穏やかな気持ちで、ある時は不安と焦燥感を抱いて。だが、今の様な気持ちをもって眺めることは初めてだったし、今後これがないことを祈りたい。

 今日は、呉鎮守府の奴らと野外バーベキューだった。元々俺はそこに参加するつもりはなかったんだけれど、鳳翔や利根がどうしてもというんで、半ば引っ張られるようにして輪の中に入った。
 そして驚いた。奴らは食う。やたら食う。

 道理で前夜祭の食事会の請求書の桁が毎回増えているわけだ。俺もうっかり症だ。ま、今さらだけれどな。
 俺が早くもギブアップしても、奴らは食べ続けていた。それはまぁいいだろう。それよりももっと驚いたことがある。
 奴らは楽しそうだった。仮にも決戦前なのにだ。しかも、それが自分たちの命、ひいてはヤマトの運命を左右するかもしれない決戦だってのに。・・・・意外だった。最初はそう思ったが、すぐに違うと気が付いた。これが奴らの普段の姿なんだと。
 俺もいつの間にか奴らの輪の中で笑っていた。なんだ、これじゃ俺も同じ貉じゃないか。だけれど、それはそれでいいと思った。呉鎮守府艦娘らしいじゃないか。
 パーティーが終わって俺は一つ思った。もっと早くからこうして輪の中に入っていればよかった、と。今までは奴らに気遣って、輪の中に入らなかったが、俺自身はそれで損をしていたわけだ。
 
 人生は一度きりしかない。いや、俺は今までは人生はずっと
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