第三十七話 眠れない夜を抱いて
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、普通ならこんなことはありえません。今、私も葵さんも夢を見ているんです。とても幻想的で、ずっとこの中にいたいと思えるほどの美しい光景。そして・・・・。」
いつの間にか緑色の光が無数に二人の前に後ろに、周りに集まってきていた。一面蛍のように淡く光ったり瞬いたりしている。二人の周りだけではない。横須賀鎮守府にも、市街地にも、そして海上にも無数の光が揺蕩っている。
「これは・・・死者たちの魂なのね?」
そう言った時、葵の目の前に3つ、光が並んだ。それはまばゆく発光したかと思うと、見る見るうちに人型の光となって降り立った。
葵ははっとして数歩下がった。
「バカな!?そんなことはありえないわ。どうして・・・・ここに・・・・前世の私の姉たちが・・・・・?」
そこにはかつて夢で見たままの敷島、朝日、そして初瀬、いや、彼女たちだけではない。日本海海戦で共に戦ったかつての仲間たちが降り立ってきていた。
「これは、葵さんが想っている大切な人たちの姿です。残念ながら私には見えませんが・・・・。」
赤城の声を聴きながら、葵は数歩歩み寄った。
声こそ聞こえない。でも、確かにそこにいた。
葵の肩をしきりに強くたたく勝気な敷島。
葵をじっと見つめて何やら小言のようなものを言っている朝日。
そして、葵を優しく微笑んで優しく話しかけてきている初瀬。
いつの間にか葵は沢山の光の中に囲まれていた。
「自己満足かもしれない。でも、今わかったわ。私が思っている限り、私の大切な人たちは時空を超えて確かにここに存在するのね。」
どのくらい時間がたったのだろう、葵はほうっと息を吐き出して光の輪から離れた。すると光は飛び去り、後には赤城と葵の二人だけが残った。
いつの間にか淡い光は消え、元の静かな暗闇が戻ってきていた。
「私は元々巫女の家に生まれました。私の家系は代々こうした死者との対面ができる力があるんです。とりわけ私が一番感受性が強いと言われていました。だからこういう光景を引き寄せることができたんです。いつもできるとは限りませんけれど。」
葵はぼうっとなっている頭を緩やかに振った。まるで幻想世界を何年も旅してきたかのように現実に降り立った感覚が戻ってこない。強いてそれを戻そうと足を踏みかえると、ようやくいつもの土の感触がなじんて来た。
「赤城。ありがとうね。どういったらいいか、言葉にはとうてい言い表すことのできないものを見せてもらったわ。」
「こうしていても私の死んだ兄は帰ってきません。」
やや冷たい声で赤城が言った。
「所詮は自己満足なのです。ですから、私は死者に対面したくはなかった。でも・・・・。」
赤城が不意に顔を背けた。長い黒髪が彼女の顔を隠した。
「でも、最後に私はそうしたかった。後悔してもいい。最後に私は・・・・・。」
葵は彼
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