暁 〜小説投稿サイト〜
艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第三十七話 眠れない夜を抱いて
[7/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
人かは戦死するだろう。下手をすれば、全員がミッドウェー本島の海域に屍を浮かべるかもしれない。そうなればこの祭壇の石碑に、彼女たちの名前が刻まれることになるだろう。

 それでも祈らずにいられない。それでも願わずにいられない。

 生きて、再びみんなでここに戻ってこれますように、と――。

 彼女の長い黒髪が夜気に揺れ、靡いていく。美しいその横顔はただひたすらに仲間の無事を祈っていた。
「・・・・・・・・。」
後から上ってきてそれをじっと見つめていた葵は長いこと彼女を見つめていた。だが、呪縛から解かれたように軽い吐息を吐くと、ゆっくりと背後に近づいていった。
「赤城。」
優しく話しかけた葵に赤城はひざまずいたまま顔を向けた。
「とても綺麗だったわよ。」
葵は赤城の隣に立った。
「あなたのみんなの無事を想うその気持ち、顔に出ていたわ。とても綺麗だった。純粋な思いはそうやって人を美しくするのね。」
「こんな時に、こんなことを言うのですね。」
赤城が穏やかに言う。
「私は最後まで私だからね。連合艦隊総旗艦でも梨羽 葵でも私は私なのだから。それ以上でもそれ以下でもないわ。それはあなたもそうよ。」
「ええ・・・・。」
「そう言えば、加賀は?一緒じゃないの?」
「加賀さんには黙って抜け出してきました。どうしても最後にここで一人で祈りたかったんです。」
「一人で?」
はい、と赤城がうなずいた。
「私は、艦娘として就役してから呉鎮守府に赴任するまで、ここでいくばくかの時を過ごしました。私にとってここは特別な場所なのです。できれば・・・最後まで一人でいたかったのですが。」
邪魔だった?降りようか?という葵の問いかけに赤城が首を振った。
「いいえ、もう充分に祈りました。」
そう言ってから、赤城は立ち上がった。
「知っていますか?この幻燈、死者たちの魂を呼び寄せると言われています。艦娘でなかった時分、私の家族のうち、私の兄がここに眠っているんです。イージス艦の乗り組みとして深海棲艦との戦いで戦死した兄が。」
赤城がそっと祭壇の石を撫でた。すると不思議なことが起こった。ぼうっとその部分だけ淡い緑色に変わったのだ。
「これは・・・・?」
「空を見てください。」
促されて空を見た葵はあっと声を上げた。さっきまでの漆黒の空ではない。一面まるで精密な望遠鏡をのぞいたかのような星々がまばゆく輝いていた。赤い銀河、青い銀河などの色とりどりの銀河がまるで横須賀鎮守府の上空に集まってきたように輝いている。そして地平線と空との境はすべて淡いエメラルドグリーンに輝いていた。
「どうなっているの?夜じゃないわ。ううん・・・まるでこの世の物とは思えない光景ね。とても幻想的だわ・・・。」
「夢ですよ。」
赤城が微笑んだ。
「夢!?」
「ええ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ