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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第三十七話 眠れない夜を抱いて
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た。
「いいわよ、別にそんなにマジに謝らなくたって。こっちが肩透かしよ。」
「あ、ごめん・・・・。」
「だから謝らなくたって――。」
そのとき、サクサクと砂を踏む音がした。二人が振り向くと、近江、そして讃岐が歩いてくる。
「あれぇ珍しい!どういう組み合わせなんですか?」
「その言葉、そっくりそのまま返すわよ。」
声を上げた末っ子に尾張がフンと鼻を鳴らして応じた。
「あんたたちは何をしていたの?」
「久しぶりに近江姉様とお茶をして、ゆっくり話をして、ここに来たんです。ここ、一番の夕焼けを眺められるスポットだって言われて。丘から見下ろす景色もいいですけれど、ここで波打ち際にたってみる夕日もいいですね!」
既に夕日は半分沈んで、背後の空は紫色の様相を呈してきた。それを黙って4姉妹は見つめていた。不思議なほど誰も口を利かなかった。
「そうね。こうしてここで4人で過ごせること、とてもいい時間だわよね。」
夕日が沈み切って、あたりに薄闇が訪れ始め、ようやく紀伊が沈黙を破った。
「けれど。」
尾張が何か言う前に、紀伊は3人を見た。
「これで最後にはしないわ。勝って帰って、また4人でここで夕日を見るの。」
「夕日はいいけれど、今度は朝日も見てみたいですわ。ここに戻ってきて朝日を見たとき、本当の意味での私たちの人生が始まるような気がします。」
近江がしみじみと言った。それを聞きながら、紀伊は思った。今朝もそうだったが、生体兵器として、艦娘として今まで生きていたが、ミッドウェー本島攻略後にはその立ち位置も変わるだろう。いや、変えて見せなくてはならない。前世に支配される艦娘ではなく、生体兵器でもなく、一人の人間として、まっすぐ前を向いて自分の道を切り開いて進んでいくのだ。
そのためにも今回の戦いは絶対に負けられない。
紀伊はこぶしを硬く握りしめた。



21:00 出撃まであと9時間――。
 既に大半の艦娘たちが明日に備えて寝ている中、一人の艦娘が横須賀鎮守府、横須賀市街を見下ろす小高い丘に上ってきていた。
 そこには、幾多の戦没者等が祭られている祭壇がしつらえられていた。黒々とした御影石で出来ている祭壇はちょうど凸のような形をしている。でっぱりの部分には所狭しと戦没者の名前が刻まれ、淡い緑色の光をたたえる不思議な幻燈が4か所にともされていた。
「・・・・・・・・。」
彼女は持ってきた花束を底に置くと、静かにひざまずいて手を合わせた。
(どうか・・・どうか・・・・私に力を貸してください。そして、必ず全員が生きて戻ってこれますように・・・・誰一人死ぬことのないように・・・・・。)
はかない願いだとわかっていた。明日の戦いが文字通り生死をかけたものになることを彼女ほどわかっている者はいなかった。おそらく多くの者が傷を負い、幾
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