第三十七話 眠れない夜を抱いて
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10:00 出撃まであと20時間――
武蔵と大和が横須賀鎮守府近海を走っている。近海と言っても防波堤内部の内海なので、すぐ後ろを見渡せば鎮守府の全体の威容が見えるのだ。
「あぁ・・・いい風だな。こんなに穏やかな気持ちで走るのは久しぶりだ。」
「本当・・・外に出て来て良かったわ。ありがとう。」
「いや、たまにはこうして二人きりで走るのも悪くはないな。」
「ああっ!!武蔵危ないっ!!」
突然大和が叫んだ。
「ん?・・・ぅおっ!!!!」
慌てて武蔵が急速減速をかけたが、ものすごい大波がそばにいた艦娘にかかってしまった。
「あ、あぁすまん!!・・・大丈夫か?」
ケホケホケホケホ!!とせき込んでいた艦娘がブルブルと犬の様に身震いした。
「あぁ!!びっくりした〜〜・・・・。」
「まるゆか。すまなかったな。大丈夫か?」
「ややや大和さんにむむむ武蔵さんっ!!」
まるゆは海軍式の敬礼をした。
「だだだいじょうぶです。ご、ごめんなさいこんなところでぼ〜っとしていて。」
「ぼ〜っとしていたのか?」
「は、はい。今日は非番なので、潜水訓練をしていたんですけれど、ついぷかっと浮かび上がってしまって。」
「調子、どう?」
大和が優しく問いかけた。
「駄目駄目です。急速潜航はできないし、潜水中もあまり早く動けないし、気を抜くとすぐに浮かんじゃうし、あぁ・・・私、駄目駄目ですよね。」
「そんなことないわよ。まるゆちゃんのおかげで、物資輸送任務が成功したこと、あったでしょう?」
あぁ、そうだったな、と武蔵も相槌をうつ。紀伊たちが赴任してくる前に、離島に出撃した艦隊が燃料不足のため帰投できなくなった。周りには深海棲艦が出没していて輸送艦では撃沈される恐れもあった。折り悪しく、駆逐艦隊も出払っていてドラム缶を駆使しての輸送もできない。
そこで、まるゆが輸送艦として燃料を積んで出撃し、無事に艦隊に届けたのだ。
「時間がかかったけれど、あれは間違いなくまるゆちゃんの功績なのよ。もっと自信もって。」
「あ、ありがとうございます!じゃあ、わたしはまた訓練に戻りますから。」
そういうとズブズブとまるゆは沈んでいく。もっともそれは潜航というより、沈没していると言った方が正しかったのかもしれないが。
「なんというか、まるゆをみると、癒されるな。」
武蔵がつぶやいた。
「マスコットのようなものだってこと?それはちょっと失礼かもしれないわよ。」
「悪いな。だが、いい意味でだよ。」
和やかな目をしている武蔵を見ながら、大和は妹も変わったものだと思った。当初は巨砲大艦主義、戦艦温存主義と言うべき言動をしていたが、それは徐々に変わりつつあった。
(あの人が・・・紀伊さんがいらっしゃってからよね。尾張さんに対してもいい意味で感化できているし、紀伊さ
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