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異伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(ヴァレンシュタイン伝)
オスカー・フォン・ロイエンタールの誓い
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イは絶品だぞ。これなら食べられる。卿も食べてみてはどうだ、少佐がせっかく作ったのだ」
余計な事を言うな、トサカ頭。案の定だった、ミッターマイヤーが同調し、ミューゼル大将、キルヒアイス中佐も勧めてくる。仕方が無い、一口だ、一口食べて適当な事を言って終わりだ。
「甘いようで甘くない、甘くないようで甘い、なんともいえない味ですな」
同感だ、俺もそう思う。なんともいえない味だ。
「卿もそう思うか、ロイエンタール」
何を言っている、ミッターマイヤー、心に思ったかもしれないが口に出してはいないぞ。何故俺に向かって言うのだ。……俺か、俺が言ったのか? 念のためもう一口食べてみる。
「このサクサク感が絶妙です。やっぱりパイはこれが無くては」
……俺だ、間違いなく俺だ。どういうことだ、これは。何故俺は喋っている。危険だ、このアップルパイは危険だ。俺は残りのアップルパイを口にいれコーヒーで流し込んだ。
「コーヒーの苦味とアップルパイの甘さがなんとも言えませんな。いや、実に美味い」
誰が喋ったかは言うまでも無い。俺はお天気女を睨んだ。この女、一体どんな魔法を俺にかけた。
俺が睨んでいるのをどう受け取ったか、お天気女は俺の空いたコーヒーカップにコーヒーを注いだ。
「アップルパイのおかわりは如何ですか?」
俺は必死で口を閉じた。ともすれば“貰おう”と言葉に出そうだったのだ。努力の甲斐あって言葉は出なかった。だが、代わりに手が出た。ケーキ皿を手にした俺の右手が。お天気女はにっこり微笑むとアップルパイを皿に載せた。
俺はこれまで女という生き物を軽蔑してきた。どうしようもない生き物だと。だがそれは間違いだった。世の中には恐ろしい女もいるのだ。俺の母親などお天気女に比べればガキみたいなものだろう。
俺の目の前にいるお天気女は男達を自由に操る魔性の生き物だった。この女はトサカ頭を操り、ミューゼル大将を操り、いつか帝国を裏から支配するつもりに違いない。多くの男がこの女に良いようにこき使われ、それを喜ぶ馬鹿な男になるだろう。
妄想だと皆が言うだろう、笑うだろう。だが俺は考えを変えるつもりは無い。アップルパイ一つで俺を自由に操るのだ、妄想のはずが無い。この女は危険だ、間違いなく危険だ。常にその動きを監視する必要があるだろう。俺はアップルパイを睨みながら心に誓った。間違ってもこの女には手を出さないと。
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