第二章
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店の中で寝てばかりだった、猫は基本よく寝る猫だがこの日この猫は寝たまま動かない。その猫を見てだった。
常連の客の緒形雄作は首を傾げさせてだ、店長の弓永豊に尋ねた。
「おい親父、母親猫がな」
「元気がないっていうんですね」
「どうしたんだ?」
「実は昨日からなんです」
弓永は緒形の薄くなった白髪が目立つ面長の顔を見つつ言った。弓永は小柄で細い目にもう還暦だが髪の毛は黒々としていて唇は細い太った男だ。
「あまり」
「元気がないのか」
「それで昨日病院に連れて行ったら」
動物病院にだ。
「風邪らしいです」
「猫の風邪か」
「はい、そうです」
「だから寝てばかりか」
「そうなんです」
そうした事情でというのだ。
「ずっと寝てます、亭主の方もそうね」
「父親猫もか」
「風邪で。今日は連れて来ていません」
「じゃあ何で母親猫は連れて来たんだ?」
「実は連れて来るつもりはなかったんですが」
風邪なので身体のことを気遣ってだ、彼女の夫にそうした様に。
「ですが」
「それでもか」
「はい、店に来る時に連れて行けっていう顔をしたんで」
それでというのだ。
「子供達と一緒に連れてきました」
「そうした事情か」
「はい、ただ店に来ても」
それでもとだ、弓永はその母親猫を見つつ緒形に話した。
「この通り」
「寝てばかりか」
「そうしています」
「そこまでして来なくていいのにな」
「この猫はここが好きなんで」
店の中がというのだ。
「それで毎日連れて来てまして」
「それでか」
「今日も連れて行けっていう感じだったので」
「連れて来たんだな」
「この通り」
「そういうことか」
「はい、薬はやってますから」
風邪薬をだ、動物病院で医者から貰った。
「寝てれば治ります」
「そこは人間と同じだな」
「風邪になれば薬を飲んで寝る」
「それもじっくりとな」
「ですから」
「寝てるんだな、ただな」
注文したホルモン、七〇〇グラムの袋を二つ店の向こうにいる弓永から受け取りつつだ、緒形はこうも言った。
「風邪ならな」
「あったまってですか」
「そうした方がいいけれどな」
「何か上からかけますか」
弓永は緒形の言葉を受けて言った。
「やっぱり」
「そうした方がよくないか?」
「それがいいですね」
弓永も頷く、それで何か上からかける布を持って行こうとした。
しかしだ、見れば。
子猫達がだ、集まってだった。
母猫の周りにいた、それを見てだった。
緒形は笑ってだ、こう言った。
「おい、それはよくないな」
「ですね、集まってお母さんを暖めても」
「風邪が感染るだろうに」
「そうなりますよね」
「これはよくないな」
「はい、気持ちは嬉しいです
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