第四章
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「ですから」
「それで、なのですか」
「その作品を受け取る資格はありません」
「私もそう思います」
「私もです」
三人は横に並んでテーブルに座った状態で自分達の前にいる松坂に述べた。
「あの作品と映像も拝見させてもらいました」
「すると余計にです」
「そう思えるのです」
「主人の芸術への鬼気迫るまでの想いが」
「そしてその熱意が」
「狂気に陥っていますが」
だがそれでもというのだ。
「そこにあるものから逃げました」
「受け入れられませんでした」
「それは今もですから」
「ですから」
「あの作品は受け取れません」
「私達にはその資格も気概もありません」
育子は松坂に答えた。
「ですから貴方にお任せします」
「左様ですか、ただ」
「ただとは」
「私があの品をどうにかしてお金が出来た場合はです」
松坂は育子に生真面目な顔で返した。
「その時はそのお金はです」
「私共にですか」
「お渡しします」
「それはどうしてでしょうか」
「貴女達が先生のご家族だったからです」
それ故にというのだ。
「ですから」
「だからですか」
「お渡しします」
金をというのだ。
「そうさせて頂きます」
「そうですか」
「先生の最後の作品は美術館に譲ろうと考えていますが」
「その時にですね」
「お金が支払われればです」
他ならぬ松坂自身にだ。
「その時はお金はです」
「私達が家族だった、そして遺族だからですか」
「お渡しします」
「それには及びません」
すぐにだった、育子は松坂に答えた。そして。
聡美と愛実もだ、お互いに顔を見合わせ無言で頷き合ってからだった。松坂に顔を戻してそのうえで答えた。
「私達もです」
「その様に考えています」
「お金はいりません」
「そちらも」
「それはどうしてですか?お金はです」
松坂は断った三人に怪訝な顔になり返した。
「生活の為に必要で」
「私は主人がこれまで稼いでくれたお金で充分過ぎる程暮らしていけます」
まずは育子が松坂に答えた。
「絵や彫刻を売っていたお金で」
「だからですか」
「私にはわからない芸術でしたがいつも高値で売れていましたし画廊も好評だったので」
それでというのだ。
「お金はです」
「困っていませんか」
「ですからもうです」
「お金もですか」
「いりません」
「私も仕事をしていますので」
「私もです」
二人の娘達も言う。
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