第三章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「全てを見守りました、証言します」
「ではこれは自殺かも知れないですが」
「そう判断も出来るかも知れませんが」
「そのことで事情を聴取したいですが」
警察の方からこうした声が来た。
「宜しいのですか?」
「ご同行を願えますか」
「はい」
松坂は逃げることなくだった、警察の求めにも応じて事情聴取も受けた。同時に映像も検証それも徹底的にされたが。
そのうえでだ、彼は無実とわかった。
「貴方は何もされていませんね」
「現場、先生の仕事場も動向も調べさせてもらいましたが」
「貴方は一切関わっていません」
「弟子として見守られただけですね」
「そうです」
その通りという返事だった、松坂のそれは。
「証言させてもらった通りです」
「先生の芸術を、ですか」
「最後の最後まで、ですか」
「見守られたのですか」
「私は先生の弟子で敬愛もしていました」
弟子として、というのだ。
「ですから」
「最後の最後まで、ですか」
「見守られていたのですか」
「そして映像を公表されましたか」
「作品も」
「はい、そうしました」
松坂の態度は礼儀正しくさえあった、そのうえでの返事だ。
「お話させてもらった通り」
「では、です」
「あの作品はどうされますか」
「映像は公表されたままにされるとのことですが」
「作品は」
「私は弟子に過ぎません」
これが松坂の返事だった。
「それ以外の何でもありません、ですから」
「ですから?」
「ですからといいますと」
「作品はご家族にお渡しします」
血縁者である彼女達にというのだ。
「そうさせて頂きます」
「左様ですか」
「では、ですね」
「貴方はそうされるのですか」
「はい、それが私の務めです」
自分を取り調べた警官達に毅然として答えてだった、そのうえで。
松坂は実際に富岡の家族、正式に言うと遺族の家を訪問して事情を全て話した。そのうえでこう申し出たのだった。
「あの作品をです」
「私達に、ですか」
「お渡しして下さるのですか」
「そうさせて頂きたいのですが」
富岡の娘であった聡美と愛実に答えた、妻であった育子も共にいる。
「宜しいでしょうか」
「確かに私達は娘でした」
「家族でした」
二人は松坂に後ろめたい声で答えた。
「ですが私達は父の最後の時共にいませんでした」
「父がおかしいと思い逃げました」
表情も後ろめたさを感じるものだった。
「何か大変なことをすると思い」
「そのことがあまりにも怖くて」
「そして見捨ててしまいました」
「家族であったのに」
「私もです」
育子は娘達以上にだ、松坂に後悔している顔と声で答えた。
「主人を見捨ててその傍にいませんでした」
「最後の時に」
「そうでした
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ