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真田十勇士
巻ノ七十五 秀吉の死その一

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                 巻ノ七十五  秀吉の死
 遂にだ、秀吉は死の床についた。その彼を見てだ。
 前田利家は彼の家臣達にだ、難しい顔で言った。
「太閤様はおそらくな」
「はい、間もなくですな」
「この世をを去られる」
「そうなりますな」
「うむ」
 間違いなくというのだ。
「そうなられる」
「ではこれから」
「天下はどうなるか」
「それが問題ですな」
「果たして」
「わしはもう決めておる」
 前田は家臣達に確かな声で答えた。
「お拾様の後見役にと既に言われておるからな」
「太閤様に」
「その様に」
「だからな」
 それ故にというのだ、前田は幾分咳き込んでから言った。
「わしはお拾様をお護りするぞ」
「それではですな」
「我等もまた」
「その様に」
「うむ、しかしな」
 ここでこうも言った前田だった。
「わしはそうするが」
「それでもですか」
「わしに何かあればな」
 微かに自身に不吉なものを感じての言葉だ。
「その時はこの家が何があっても残る様にしよう」
「天下がどうなった時も」
「前田家は残る」
「その様にですか」
「うむ」
 家臣達にこうも言うのだった。
「折角ここまでなったのじゃ」
「百万石ですからな」
「尾張の一武士からはじまって」
「今では百万石」
「だからですな」
「赤母衣衆として身を起こしてな」
 信長の傍にいて戦っていた、若き日の前田は。
「槍の又左と言われてな」
「だからですな」
「これだけのものを得られたからには」
「何としてもですな」
「この百万石を守る」
「そうしますか」
「わしの後はじゃ」
 前田はあらためて言った。
「まつに任せておる」
「奥方様にですか」
「そうされていますか」
「では後は」
「それからは」
「倅もおるが」
 嫡子の前田利長だ、既に跡継ぎは決まっているのだ。
「あ奴の後見としてじゃ」
「奥方様がおられますか」
「では後は、ですな」
「奥方様にお任せする」
「そうされますか」
「まつならば大丈夫じゃ」
 長年それこそ戦国の世を共に生きてきた糟糠の妻だからこそだ、前田は妻に絶対の信頼を置いていてそれで言うのだ。
「いざという時のあ奴程強いものはないな」
「はい、確かに」
「あの方にこれまで土壇場でどれだけ救われたことか」
「殿も我等も」
「幾度となくですから」
「そうじゃ、あ奴に任せておる」
 いざという時はというのだ。
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