百十二 驚天動地
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双眸。
何の感情も窺えない、絶対零度の視線。
途端、黄泉の身体の穴という穴から黒煙が立ち上る。
黒々とした靄が、黄泉の口を取り押さえているナルトの指間をすり抜けてゆく。ナルトの手から逃れようと寸前まで暴れていた黄泉の腕がぶらんと垂れ下がった。
「抜け殻か…」
既に死んでいる黄泉に視線を落とし、ナルトがチッと舌打ちする。
【魍魎】が黄泉の身体から抜け出たのだ。
妖魔の器となった男の哀れな最期を見て、ナルトは眼を細め、やがてパッと手を離した。あっさりと小さな手から離された死体が音を立てて床に崩れ落ちる。
つい先ほどまで言葉を発していた黄泉の身体は朽ち果てており、その手は干からびていた。
物言わぬ骸を前に、ナルトは周囲に視線を走らせる。
黄泉の中にいた闇が、紫苑の張った結界の傍で蠢いている。どうやら結界に阻まれて近寄れないらしい。
すぐさま【魍魎】目掛けて駆けようとしたナルトの身体に、何の前触れもなく、激痛が奔った。
声も無く呻いたナルトは、己の中で暴れる零尾を抑える。【魍魎】の闇に触発されたのか、暴走する黎明を体内で宥めていく内に、ナルトもまた平静を取り戻した。
洞窟に満ちていた殺気が徐々に薄れてゆく。殺意を抑え、ナルトは人知れず自嘲した。
「……本当に愚かなのは、俺自身なのかもしれないな…」
零尾の抑制に気を取られていたナルトは、次の瞬間、【魍魎】の狙いに気づいた。咄嗟に、結界を張ったことで若干気を抜いている紫苑を呼ぶ。
だが、既に遅かった。
【魍魎】の肉体を封じている棺を前に、呪文を唱えていた紫苑の背中に、急に何かがもたれかかった。
悲鳴を上げて座り込んだ彼女は、動くはずのないソレを呆然と見つめる。紫苑の耳に、【魍魎】の勝ち誇る声が響いた。
『フフフフ…焦ったな、巫女よ。結界を張る前に、辺りをよく見ておくべきであった』
「………ここに、入り込む為…?」
紫苑の張った結界は、【魍魎】に対しては絶対の力を誇る。だが、それ以外にはさほど効果しないのだ。
今し方、結界を抜けて中に入り込んだソレは、ナルトに変化していた黄泉の部下の一人。
黄泉の朽ち果てた肉体を捨てた【魍魎】は、つい先ほど死んだ人間の中に入り込み、そして己を阻む結界内に侵入したのである。
死体とは言え、人間を器にした【魍魎】が結界を通過するのは容易いことであった。
封印の紋章が施された床の上でゴロリと横たわった骸が、突如、弾ける。中からは、ナルトの手から逃れた黒い闇が立ち上った。死体を突き破って現れた【魍魎】を眼にして、紫苑は咄嗟に棺へ駆け寄る。
肉体が封印された棺の上に身を投げ、彼女は自らの身体で【魍魎】の侵入を防ごうとした
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